わたしの目が悪かったら 良かったのに。


彼と同じピアスをしている女の子。一つのピアスを分け合って使ってるのかな。気づかなければ良かったよ。見つけてしまったんだ。ねえどうして。

ピアスホールの開いてない、わたしの右の耳たぶをさわった。


わたしもピアスホールが開いていたら、彼と同じピアスをぶら下げることができたの?痛いのはいやだし、自分の体に自ら傷をつけるのだって嫌だ。リスクを冒さなければ、彼のそばにいられないのなら。


「りょうた 別れよう」


わたしはこの上なくわがままで。涼太を好きになったことだってわがままだった。そのわがままが実を結んで涼太とお付き合いできることになって、そしてわたしはさらに我儘になる。涼太のすべてになりたかった。涼太の一番の女の子になりたかったんだ。涼太が女遊び激しいのなんて承知の上だったし、もしかしたらわたしに対して本気じゃないのかもしれない。そんなの全部分かったうえでお付き合いしてたのに、ねぇ。どうして。いつしかそんなこと、忘れてしまっていた。

今まで見たことのない涼太がそこにはいて。

悲しそうな顔をして、わたしのことを穴が開いてしまうくらい見ていた。わたしのわがままで、涼太にこんな表情をさせてしまったのか。ああ なんてわたしはわがままなんだろう。涼太の中学生の頃の制服の第二ボタンも、涼太の中学生の頃のネームプレート、ぜんぶくっつけたスマホ。どうしよう。捨てなくちゃいけないね。


「なんで いきなり?」

昨日まで二人で笑ってた。たくさんお喋りして、デートして、いっしょにいた。でも、あのこのピアスが、今涼太がつけてるピアスと一緒だったの見ちゃったから。思い出がガラガラと崩れて行ってしまったんだ。涼太はガシガシと頭を掻いて、下を向いて、言った。「そんなのいやだ」ああああああ、わたしは間違った選択をしてしまったの?わたしのこと本気じゃないって思ってたけど、それは勘違い?


でも きっと 間違ってない。


「わたし 涼太の大好きな人に なりたかったよ」


わたし以外にも好きな子がいる涼太なんて、耐えられない。わたしだけが良かったんだ。涼太の好きな人は、わたしだけが良かったんだよ。


「最初から 最後まで わがままでごめんね」


わたしの目が悪くて、涼太と同じピアスをしてる女の子なんて、見つけなければよかったんだ。そうしたら、今もきっと、こんな別れ話なんてしなくて済んだのかもしれないのに。


「いやだ」


最大のわがままを貫こうとするわたしを、どうか許してください。


「涼太のこと だいすきだったよ」


今でも大好き。


「別れたくないッスよ」



涼太の語尾がどんどん小さくなっていって。


「今までありがとう」


今生の別れみたいなことをわたしが言うもんだから。


「行かないで」


涼太は下を向いて、涙をこらえた。


「ばいばい」


わたしは涼太から卒業できるのだろうか。
今でもこんなに好きだと思うのに。
どんなに遠くにいたって、見つけられる自信があるのに。


「真帆」


涼太を忘れられそうにないのに。


最後にわたしの名前を呼んだ涼太の声が 耳から離れなかった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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