普段は解放されていない屋上。常に鍵がかかっているから誰も入ることはできない。まあわたしはこっそり合鍵作ったからいつでも入れちゃう。だるい体育の授業の日、わたしはサボりに屋上へと続く階段を上った。ドアノブに手を伸ばしたとき、ドアが数センチ開いていることに気がついた。キチンと締められていないドア。風に吹かれてゆらゆらと揺れている。もしかして屋上に誰かいる?持っていた鍵を握りしめてスカートのポケットに仕舞い、思い切ってドアを開いた。広がる青空にグラウンドから「いっちにーさんしっ」とリズミカルな声が聞こえる。準備運動でもしているんだろう。わたしの直線上に、だれかが寝転んでいるのが見えた。ドアをゆっくりと閉めて、そのだれかを目指して歩く。わたし以外の人間が、この屋上にいるのは初めてみたから、どこのだれか気になってしまう。ジャリ、とわたしの中履きが地面を鳴らすと、その人はムクリと起き上がって、振り返った。


「国見くんじゃん」
「あ、れ。内田、さん?」


同じ中学校だった、国見くんがいた。同じクラスになったことはないけど、たくさんクラスがあるわけでもないし、バレー部でもレギュラーだった国見くんを知らない人は少ない。


「よくわたしの名前分かったね」
「うん。同中だし」
「ふーん。あ、隣座っていい?」


風に煽られて浮かぶスカートの裾を抑えて、国見くんが「うん」とも「だめ」とも言う前に座り込む。中学からあまり変わっていないように見えたけど、なんだかここ数カ月の間でたくましくなったように見えた。国見くんは伸びた前髪を指先でちょいちょいとわけると、わたしの目を見て言う。「内田さんこそ、よくわかったね」「そりゃあ、同中だし」その他一般生徒にまぎれて見つけにくいわたしとバレー部レギュラーの国見くんって言ったら、国見くんの方が知ってる人、たくさんいると思うけどな。


「国見くんどうやってここ入ったの?」
「髪の毛留めるピンでガチャガチャやってたら開いた」
「手先器用なんだね」
「うん。内田さんは?」
「わたし合いカギ持ってる」
「すげぇ」
「職員室掃除のときちょちょいとかりてちょちょいと返した」
「度胸あるね」
「そう?」
「うん」


今日はこんなにいい天気で、でも体育はしたくない。ごろんと寝転がる。一人でさぼるとき、こうやって空を眺めては頭の中でしりとりをするように、物思いにふけってしまう。今日は一人ではないんだけどね。国見くんは口数が多い方じゃないみたい。


「国見くんのクラスは何の授業なの?」
「今自習」
「なのに屋上きたの?」
「クラスいても暇だから」
「へえ」
「内田さんは?」
「今グラウンドで体育してるよ」
「体育苦手なんだ」
「苦手ってわけじゃないけど、なんとなく今日はやる気が起きなくて」
「ふうん」


沈黙。
国見くんもわたしと同じように寝転んで雲の行方を見つめた。さっきから全然時間は進んでいないように思えるのに、雲は形を変えてどんどん流れて行く。あと何分したら体育の授業は終わるのだろうか。時計なんて無い。チャイムが合図だ。


「国見くんて真面目そうだけどさぼったりするんだねぇ」
「サボってるかな」
「自習でもサボりでしょー」
「そっか」
「あーあの雲魚みたい」
「え、どれ?」
「ほらあれ」


手を伸ばしてあの魚みたいな形をした雲を指さす。国見くんはわたしがどれのことを言っているか分からないみたいで、眉間に皺を寄せて空を見つめた。「わかんない」「あれだよあれー」「どれ?」そんな会話をしているうちに二人の距離は近くなって、気がついたら肩が触れ合ってしまった。


「う あ。ごめん」
「わ、わたしのほうこそごめんね」


ふたりして謝っていると雲の形は魚から得体のしれない何かになってしまって。


「ざんねん」
「またなんか見つけたら教えて」
「うん」


触れ合った肩が熱を持って、ずっと空だけを見てた。



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潤さんへ
リクエストありがとうございました!

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