「静雄」
「なんだ」
「わたしに酒をおごれ」
「寝言は寝て言え」
「別れたんだ」
「・・・」


そう言うと彼は何も言わずに歩き出した。背中にはついてこいと書いてあるように思えて、わたしは彼の後を小走りで追いかけた。彼の歩幅は大きい。わたしは早歩きをして追い付かなくちゃいけない。でも彼は、

「早く歩けよ、店が閉まるだろ」


こうやって、たまに振り返っては立ち止まってくれるのだ。




友達以上恋人未満




わたしの彼氏、だった人は、静雄とも友達と呼べる仲の人だった。わたしたち三人は、高校の頃からの付き合いだった。だからか、わたしと元カレの相談相手は静雄で、喧嘩したときにはよくお世話になった。わたしと元カレの板挟み状態の静雄は、ちょっと可哀想な立場だったと思う。感謝してる。

別れたのはついさっき。長いこと付き合ってたから、別れたりしないでこのまま結婚かなあ、と考えてた矢先の出来事。一番最初に、静雄に伝えなくちゃ、って、走って静雄を探した、夜中の12時過ぎ。




「で、なんで別れたんだ?」
「わかんない」
「は?理由は?」
「別れようって言われたから、うんって言った」
「お前等何年付き合ってたんだよ、今更だろ」
「ね。まさか今別れるとはね」


小さな焼き鳥屋のカウンター。生ビールひとつに焼き鳥3本。肉の焼ける匂い、タレの焦げる匂い。美味しいはずなのに、わたしは味覚がなくなったみたいに味がよくわからない。別れ話を持ちかけられたとき、そんなにショックを受けた気はなかったのに、やっぱりショックだったのかな。


何年も恋人だった。大きな喧嘩だって何度もした。でも別れなかった。なのに今さら。昨日だって普通にメールしていた。今までと変わらない昨日だったのに、今日は違う。もう隣には誰もいない。



「この年になるともう出会いなんてないよー」
「会社は?」
「ないない。それはありえない」

働きに出て、その職場の人と結婚なんてする気にもなれない。


「でもよ、ヨリ戻るかもしんねぇだろ」
「それもないよ」

なんとなくわかった、もう元には戻れないってこと。


「静雄は優しいね、今までありがとうね、ほんとに」
「なんだよいきなり、お前らしくもない」
「そうかな、そうだね。今日だけは特別」


ひとりぼっちに、なれなくちゃいけない。




「たまにはさ、静雄の話も聞かせてよ」
「俺の話?」
「うん。彼女できた?」
「・・・できねぇ」
「顔はいいんだけどね、どうしてかな」
「顔だけか」
「高校のときもだけど、怖がられても言い寄ってくる娘いたじゃん」
「まぁ、な」
「なんで作んないの?」
「どっかの馬鹿女にずっと片想いしてるからだな」
「まじで!?初耳だよそんなの、わたしがキューピッドになってあげようか!」
「いきなり元気だな」
「友達なのに、そんな話一度も聞いたことないからさ」
「友達、か」
「え〜、だれだれ?来神のときの同級生?わたしの知ってる人?」


ヒントヒント!と喚いていると、静雄はため息一つついてこう言った。



「ヒント1、そいつとは来神の時の同級生。ヒント2、さっきまで彼氏がいた。ヒント3、俺のすぐそばにいる」








「・・・わたし?」


お酒が入っているからなのか、恥ずかしいからなのか、静雄の顔はちょっとだけ赤かった。

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