「わたしはお前のお母さんじゃない!!!!!」


ぶちぎれてアパートを飛び出した。







なんで同棲するようになったかは覚えていない。お互い就職して、付き合いも長かったし、なんとなく同棲するようになった。生活費も、家賃も、公共料金も折半の上の同棲。最初は楽しくて仕方がなかった。終業時間がわたしの方が早かったから晩御飯を作っておくのはわたしの仕事みたいになっていたし、料理するのは嫌いじゃなかったから苦にはならなかった。大輝は朝食べない派だから朝ご飯は自分の分だけだったし。そのうち大輝が「金がねぇ」とか言い始めたから、わたしがお弁当を作るようになった。

そのころはまだ良かった。
大輝も下手くそながら掃除してくれたり、洗い物してくれたり、していたから。
それが今はどうだ。
掃除も洗濯も料理もぜぇぇぇえええんぶわたし!
そのくせ生活費も何もかもが折半だときたもんだ。
わたしも大輝もフルタイムで働いているのに。

大輝は仕事行くギリギリまで寝ていて起こすのはわたし。朝早く起きてお弁当作って、自分の朝ご飯をササッと食べて仕事行って帰って来て洗濯機回してお風呂沸かして晩御飯作って・・・。その間大輝は一体何をしていたんだ。家帰ってきたらテレビ見ながらお菓子食べてぐーたら。たまにの残業で帰ってくるのが遅くなったわたしに対して「晩御飯マダ?」と来たもんだ。

イライラが募り募ってついに爆発してしまった。爆発する前にちょいちょい小出しにして大輝に伝えておくべきだったんだと、少しだけ思った。長く付き合っていても一緒に生活しなくちゃ分からないこともあるし、一緒に生活したはじめはお互いテンション上がって、自分がやる!自分がやる!って相手を思いやっていた。それが今はどうだ。今は、どうなんだ。







わたしがアパートを飛び出たところで、追いかけてくれるような人じゃないなんてことは、長く付き合ってきたから知っている。伊達に恋人7年していません。・・・7年付き合ってもこれだもんなぁ。飛び出した勢いそのままにわたしは走った。日ごろの運動不足を解消するくらいに走った。走ったところでわたしの行くあてなんてなくて、結局帰るのは青峰がまだいるであろう、同棲中のアパートなのだ。涙が出てくるね。アパートを出た時間はまだ街灯が着いていたが、今はもう街灯が消えてしまっている。ずいぶん長い時間走り回っていたらしい。ひとしきり走った後やっと携帯を見てみる。案の定大輝からの連絡はゼロだった。わたしって彼女じゃなくてオカンポジションだったのかな・・・。街灯が消えたことでわかっていたけど、時計の針は回りまわって、日付が変わっていた。町内を一周したのか、何周したのか、わたしの足はやっぱり大輝と一緒に住んでいるアパートに向かっている。二人が住んでる202号室はちゃんと明かりが着いていた。・・・本格的に別れるべきなのだろうか、わたしたちは。だってわたしはオカンになりたくて大輝と付き合っていたわけではないのだ。

カンカンカンとアパートの階段を上る。セキュリティに問題のあるこのアパートを選んだ理由は、“大輝がいるから”。大輝がいたらゴキブリが出ようと変質者が出ようと大丈夫だと思ったから。そんな思い入れのあるアパートの一室に向かう。ドアノブに手をかけて回した。当然ながら鍵はかかっていなかった。何も言わず部屋に入る。シューシューと湯気を吹くヤカン。急いで火を消した。ジャージャーと水の流れる音がお風呂場から聞こえて慌ててお風呂へ向かう。お風呂からお湯があふれていて、慌てて蛇口を閉めた。わたしはヤカンに火をかけてはいない。お風呂にお湯を張ってはいない。誰が?誰がこれをしたの?・・・いるはずの大輝がいなかった。



「だい、き?」



だって、いると思ったの。
だから帰ってきたの。
わたしがギャーギャー言っていても、大輝はちゃんといるって、思っていたの。



部屋の真ん中で座り込んだ。
物で溢れている部屋が空っぽに感じる。


大輝がいなかったら、わたし自身も空っぽなのかもしれない。






「大輝」






ガシャン!と大きな音がしてドアがひらいた。
ゆっくりとドアの方を見ると、肩で息をして、汗をだらだらと流している大輝が、立っていた。


「・・・俺、料理できねぇんだ」
「知ってるよ」
「掃除もヘタクソだし」
「知ってる」
「忘れっぽいから風呂にお湯ためても気づかなかったりする」
「うん」


そこまで言うと大輝はわたしをぎゅうと痛いくらいに抱きしめて、言った。「俺真帆がいないとダメらしい」


「うん、知ってる」


「知ってるよ」





だからわたしは君から離れられないのだ。

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