俺はヒモだ。高校のころからの夢が叶ったわけである。ヒモって言っても、別に恋人同士ではない。恋愛とかそういうのはない。なぜなら俺は拾われた身だから。臨也さんに頼まれた仕事で、ちょっとやらかしてしまい、痛手を負って倒れていたところに拾われたのだ。初めは警察に連れて行かれそうになったけど、それはまずいので、なんとか阻止し、ここに置いてもらうことになったのだ。彼女は別に裕福な社会人ではない。でも俺を置いてくれていて、衣食住、賄ってくれる。なんという慈悲深い人なんだろう。


「それじゃ、わたし行ってくるね。お昼ご飯は、冷蔵庫にあるもの適当に。残業しないように帰ってくるから」
「うん」
「わたしがいないからって寂しがるんじゃないぞ」
「真帆さんじゃあるまいし。俺は寂しがったりしないよ」
「そーお?あ、服、大丈夫?変なとこない?髪の毛も」
「ないよ。今日も真帆さんはとっても可愛い」
「・・・」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「・・ウン」


きゅ、と抱きしめて髪に小さくキスをする。赤くなった頬を隠すように、彼女は足早にここから出て行った。

さっきも言ったけど、俺はヒモだ。衣食住は彼女がなんとかしてくれている。だけどニートではない。俺はここで仕事をもくもくとこなしているのだ。彼女が働きに出た後、俺は活動をする。そんな生活が一カ月続いた。

とりあえず着替えて、髪の毛整えたら外に出よう。情報収集をして、沙樹にも連絡して、そしたら臨也さんに報告。


(・・・俺、なんでここにいるんだろう)
(この仕事も、もうすぐ片がつく)
(それに、ここに寝泊まりしなくたって 仕事できるのに)


どうしてここに まだいるんだろう。











彼女が帰ってくるまでに帰るつもりが、いつの間にかあたりが暗くなっていた。一通りの仕事を終わらせ、沙樹にも連絡入れたし、臨也さんにも報告した。俺の存在意義と言うか、何と言うか、どうしてこの生活から抜け出せないのかと、考えていたら、いつの間にか遅くなってしまった。彼女のところに住むようになってから、初めての失態。彼女はたぶん、俺がいつもいつでも家にいるんだろうと思っているはずだ。だって彼女に「おかえり」と言って彼女を抱きしめるのは俺の役目だから。


「ただいま」
「あ、おかえり」


パタパタ、と彼女が奥からやってきて、いつもみたいに笑った。驚いた。帰ってきても俺がいなかったから悲しんでいるか、怒っているかと思っていたのに。そんなそぶりも見せずに、彼女は屈託なく笑っている。


「・・・怒って、ないの?」
「えーなにが?怒ることなんて、いっこもないよ」
「・・・うん」
「お腹すいたでしょ?ご飯できてるよ」
「おなかすいた」
「待ってたんだ。一緒に食べよう」
「うん」


スニーカーを脱いで、彼女と同じ所へ並ぶ。



「おかえり」
「うん、ただいま」


朝と同じように彼女を抱きしめて、髪にキスをする。彼女はふふ、と俺の胸の中で笑った。

最初にも言ったように、俺たちは別に恋人じゃない。俺には別に恋人がいる。真帆さんは言い方悪いけど、俺にとって都合のいいひとで、ある意味利用してるんだ。ああでもなんでだろう。どうしてこんなに離れたくないんだろう。イケナイことだとわかっているのに。頭の中ガンガンと警報が鳴ってるのに、抱きしめることをやめられなくて、沙樹にごめんと、心の中で呟いた。

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