「鬼灯様の歯ってギザギザしてるから虫歯になりやすそうですよねぇ」






鬼灯様に頼まれた資料を揃えて持って行く。いつも通りに口をへの字にした鬼灯様が「ありがとうございます」と資料を受け取ってくれる。下界にはパソコンがあってこんな資料なんてすばやくできちゃうんだろうけど、ここにはパソコンがないからすべて手書きで資料を作っている。字はそんなに上手ではないから、鬼灯様に資料を作ってほしいと頼まれた時は断りたかった。上司のお願いを断るなんてできないから結局作るはめになってしまったのだが。パラパラと紙をめくり「ここはいつのデータですか?」と鬼灯様がわたしの作った表を指さす。「二年前のデータになります。まだ去年の分はまとめられてないようで」と答える。鬼灯様はへの字の口元を少し緩めて「よくできた資料です。ありがとうございました」とわたしに言う。

「いえ、遅くなってしまってすみませんでした」
「とんでもない。すぐ作ってくれたじゃないですか」
「そうですか?また何かあったらお申し付けください」

もう用は済んだし、わたしが自分の部署に戻ろうとしたとき、「ちょっと待ってください」と鬼灯様に呼びとめられて、歩みを止めた。資料に不備があったのかと思い、急いで鬼灯様の机のところへ行くと鬼灯様はそそくさと引き出しから羊羹を取り出して言う。「お礼です。一切れいかがですか?」

「え、いいんですか」
「はい。どうぞひと思いに、一口で行っちゃってください」
「じゃあ、その。いただきます」

鬼灯様の手の中にある羊羹を一切れもらい、口に入れる。羊羹の甘みがつかれた体を癒してくれるようだ。これからある残業も頑張れそうです。鬼灯様。鬼灯様もわたしと同じように一口でペロリと食べた。口大きい。そして歯がギザギザだ。







「すべて牙ですからね」
「ええ、すごい。わたし八重歯だけですよ牙になってるの」
「本当だ。牙が生え揃っている方が珍しいのかもしれませんね」

わたしがいっと鬼灯様に歯を見せていると少し驚いた様子で言った。わたしの周りの鬼もこんなに全部の歯がギザギザと牙になっている人は多くない。鬼灯様も歯をいっとして見せた。やっぱりギザギザだ。歯磨き大変そう。

「今は虫歯がないんですか?」
「痛む時もありますが気合で直します」
「えええ?痛くなくなってしまうと逆に良くなかった気がしますよ」
「そうなんですか?」
「はい」
「それは困りましたねぇ」

鬼灯様は腕を組んでうーんと悩んで言った。

「そんなに心配してくれるなら今度私の歯を磨いてくれませんか?」
「え?うち歯医者さんのあのベッドないですよ」
「そうじゃなくて、膝枕で」
「え!?」
「だめですか?」
「あの、だめじゃないんですけど、その、えっと」


そんなの恥ずかしくてしんじゃうよ。いや、鬼だけど。

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テーマ「人外ファンタジー」
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