「耳掃除して」


和成がそう言って、わたしの太ももの上に頭を乗せた。「はい」とわたしにティッシュと耳かきを手渡し、和成は目を閉じる。


「ええ!?いきなりだねどうしたの」
「耳スゲェかゆいんだけど、自分じゃ上手くできなくて」
「わたしも人の耳掃除なんてしたことないから上手にできるか分かんないよ」
「大丈夫大丈夫。血さえでなけりゃ」
「痛くしちゃうかもよ」
「いつも自分にしてるみたいにすれば大丈夫だろ」
「わかった頑張る」


和成から耳かきとティッシュを受け取ってわたしは和成の耳に挑む。・・・いや、そんなに汚れているような気はしないんだけどな。とりあえず耳かき棒でカリカリと和成の耳を掻いてみる。くすぐったいのか肩をよじらせている。「痛かった?」「ヘーキ。もうちょっと強くても大丈夫」「わかった」わたしはもう和成の耳しか見れなくて、今和成がどんな表情をしているなんてわかりっこない。


「ハイはんたーい」


もうだいぶ奇麗になったし、反対側の耳も掃除しようと思ってそう声をかける。和成は「ん」とだけ言って、体ごとぐりんと寝がえりを打った。・・・・ってこれ恥ずかしいんですけど!?さっきは向こう側見てた和成が、いまはわたしのお腹側を見るようになっている。


「どうした?」
「なんでも ない」


耳かき棒を持つ指先が熱を持ち始める。耳にかかっている髪の毛を、手ぐしでとかす。和成の肌キレーだな。睫毛短いけど、整った目の形してる。正直こうなってしまった今、わたしは和成の耳には集中できなくなっている。こんな精神が不安定な状態で和成の耳掃除をして血を出してしまったら・・・。耳掃除をしている場合じゃない。


「ごめん和成。こっち側できない」
「なんで?」


閉じていた目を開いて、何もかもを見透かすような目でわたしを見てくる。わたしが何も言わなくたって分かっているくせに、その目で見ないで。


「・・・恥ずかしから」


そう言うと和成は両手をわたしの腰に回して、がっちりとホールドする。これじゃあ身動きが取れないじゃないか。わたしのお腹に顔をうずめてごしごしと擦る。いつもは何でもできて完璧な彼氏だけど、どうしてかな。今日はなんだか子供みたいだ。手に持っているティッシュと耳かきを置いて、和成の黒い髪の毛をさらさらと撫でた。


「珍しいね」
「俺だってたまには甘えたくなったりすんだよ」
「そっか」


わたしから何かを吸収するかのように、和成はがっちりとわたしを抱きしめて離さない。何分そうしていただろう。ゆっくりと力を緩めて、わたしを解放した。和成はまた寝返りをうって、今度は仰向けになる。ちゃんとこうして顔を見ると、また恥ずかしさが込み上げて来てしまう。そんなわたしをお構いなしに和成は手を伸ばした。さっきわたしが和成にしたみたいに、わたしの髪の毛をさらさらと梳かす。


「くすぐったいよ」
「ん」


「耳掃除ありがと。気持ちよかった」
「うん。ヘタクソでごめんね」
「ちょっと寝る。もう少し膝貸してくんね?」
「いいよ」


和成はまた目を閉じる。すぐにすうすうと寝息が聞こえてきた。おでこにかかっている前髪を指先で整える。わたしは前かがみになって、そのおでこに唇を寄せた。


*

ころてんさんへ
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