「飲みに行くか」


リヴァイが誘ってくるときは、決まってわたしが落ち込んでいる時なんだ。


ロックグラスにからんからんと氷がみっつ。マスターがスコッチをトクトクとそそいでくれた。ろうそくの光でゆらゆらきらきら光るお酒に、わたしの喉は乾ききっている。リヴァイのグラスにも同じ量だけのスコッチ。ここの常連であるわたしとリヴァイはボトルを入れているから、ここに二人揃ってくることは珍しいことではない。むしろ一人で来ることよりも二人で来ることの方が多いかもしれない。


「かんぱい」


そんな気分ではなかったけれど、口から自然と乾杯と言う言葉が落ちてきた。リヴァイもグラスを手に持って、カチン、と物足りない音で乾杯をする。氷が解けていないスコッチはそれはそれは濃いものだ。こういう気分の時に、濃いお酒を飲んだら、感情に飲み込まれてしまう。そんなことはもうとっくの昔に気づいている。リヴァイは身長に似合わずお酒が強く、淡々とスコッチを飲んでいった。わたしはもう少し氷が溶けないと飲めない。リヴァイのグラスが空になるのに合わせてマスターがまたトクトクとスコッチを注ぐ。ひとつ席を開けて、カウンターに並ぶようにして座っているわたし達は、他のお客さんから見たら、どう思われているのかな。リヴァイの横顔を見ていたら喉が渇いて、コクリと一口飲んだ。うう。喉がヒリヒリする。思わず涙目になってしまう。


「何涙目になってんだよ」
「アルコールが喉に染みて」
「強がるんじゃねえ」


そうなんだ。決まってわたしが落ち込んでいるときに、リヴァイとこうやって並んで、お酒を飲んでいるんだ。


「強がってなんか」


そう言ったところで、もうアルコールに飲まれつつあるわたしは嘘をつくことができない。強がってなんかいない、そう思っていても、それはただの強がりで。リヴァイにはいつだって見抜かれているんだ。氷が溶け始めたスコッチをぐいっと飲み干す。また喉にアルコールが染みて、すこしむせた。


「無理すんなよ」


その無理すんなは、お酒を飲むの無理すんなってこと?それともわたしが色々抱えてて、無理すんなってこと?ねえ、リヴァイ、どっち?

二人で飲んでいるとき、特に会話はない。会話はないけれど、この共有している時間が、わたしにとってはなによりも重要な時間で、落ち込む原因、溜めこんでいるもの、すべてをリセットするために必要なんだ。これがなかったらわたしはとっくに調査兵団をやめて、すべてを投げたしていただろう。

今回の作戦でまたたくさんの人が死んだ。わたしが指揮を取る中、どんどん人が死んでいった。救い切れなかったその命を抱えられるほど、わたしの器は大きくない。立ち上がろうにも、両手両足沼に嵌ったみたいに重たくなってしまうんだ。そんなわたしを、いつも助け出してくれるのは


「リヴァイ」
「なんだ」
「・・・ありがとう」


リヴァイ。
リヴァイなんだよ。


「珍しいな」


いつも眉ひとつ動かさないくせに、どうして今日だけ、そんな驚いた顔をしているの?


「そんなことない」


急にお酒を飲んだからなのか、アルコールが全身に回って、重力に負けてしまう。机につっぷして、グラスを握った。ガラス越しに感じる氷の冷たさが気持ちいい。


「まだ一杯目だろ。潰れんな」
「そうだね」
「お前は重いからおぶりたくねぇんだよ」
「そうだね」


そうだね
でもいざとなったら軽々わたしを連れ出してくれるんでしょ?いつも沼から、わたしを助けだしてくれるみたいに。


「ここはわたしが奢ってあげるよ」


机に話しかけるみたいにしてわたしが言うと「馬鹿言え、ボトルだから意味ねぇだろ」とリヴァイはスコッチを煽った。


「じゃあ今度、今度ね」


その今度が 必ずわたしたちに 訪れてくれますように。



*
aoiさんへ
リクエストありがとうございました!

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -