親方!空から女の子が!


突然空から人が降って来て、よく言えたもんだなぁと、わたしは思った。


「いてててててて、あのヤロウまた桃源郷に穴掘りやがって」
「あのー」
「ああもうこの前も落ちて腰打ったっていうのに。また塗り薬作らなくちゃ」
「すいません」
「腰痛いなあ・・・あれ。痛くない」
「いい加減どいてもらえませんか」
「ええ!?下から声が聞こえる!」


人が空からひゅーんと落ちてきて、自殺か何かかと勘違いしたわたしは、助けに走った。そして野球選手のヘッドスライディングさながら、その人の落下地点へ向かって滑り込んだ。馬鹿なことしたと思ったよ。人の下敷きになったら、わたしだって死んでしまうところなのに。わたしは死ぬことも怪我をすることもなかった。それに痛みも感じなかった。わたしを下敷きにしていることに気がついたのか、スクリと立ち上がり、わたしに向かって手を伸ばしてきた。


「ありがとう。助かったよ」
「いえ」


その手を借りてわたしも立ち上がる。スカートの裾をパンパンと払い、土ぼこりを落とすと、「いいねぇ、上から見てた時スカートを下からのぞいたらどう見えるのかばかり考えていたけど、こう・・・いいね」と男の人が笑ったものだからわたしは少し後ずさりをした。もう何も話すことはないから帰ろうと方向転換した時、その人はわたしの手を掴んだ。思わず振り返ると、目を猫みたいに細くして、愛くるしく笑う。身長大きいのに。なんでこんなに可愛く笑えるんだろう。


「僕のこと見えるの?」
「・・・?何言ってるんですか?」
「そっかーそうなんだ」
「あの、離してもらえませんか」
「ねえ浦島太郎って知ってる?」
「いきなりですか変質者ですかなんなんですか」
「連れてってあげるよ、竜宮城じゃないけど」
「きゃーだれかーたすけてー!」


わたしが大げさに棒読みで助けを呼ぶと、気のよさそうなおっちゃんがやって来て「ネーチャンどうした?」と聞いてきた。「どうしたもこうしたも、この男の人がわたしの手を掴んで離してくれないんですよ」と答える。するとおっちゃんは手に持ったワンカップをぐいっと一口飲んで言う。「ネーチャンの隣に男なんていねぇぞ?」


「は????え?????」


おっちゃんと隣にいる男の人を交互に見る。男の人はなんでも知っている風に笑って頷く。え??え?????この男の人はわたしにしか見えないの?????


「連れて行ってあげるよ。天国へ」


そう言って男の人はわたしの手を強く引っ張る。


「ねえ、亀さん。あなたの名前は?」
「白澤。亀じゃなくて神獣だよ」


大きく一歩踏み出すと、わたしは空を飛んだ。

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