(新婚さんのつづき)


にゃーおと猫がボクの足にすり寄ってくる。わしわしと頭を撫でて、テーブルに向かった。傍らには甘いミルクティー。


「よし」


ねぇ、もしボクが漫画を描いてるって知ったら、ボクのこと嫌いになる?捨てきれなかった夢を、追いかけ始めたことを知ったら、君は一体何を思うのかな。ストーリーはもう決まってるんだ。料理が得意な旦那さんと、料理が苦手なお嫁さんのお話。君とボクのお話。まだネームも出来上がってないけど、できたら一番に君に読んでもらいたい。結婚してからと言うもの、ボクは君に頼りっぱなしだから、君なしでボクにできることはないか、考えてたんだ。鉛筆を握る手に力がこもる。学生の頃は絵を描いたり漫画を描いたりしていたけど、社会人になってからは全く描いていない。絵もすっかりヘタクソになっている。こんなんじゃいつ出来上がるか分からない。ふぅ、と息をついてミルクティーを口に含む。すっかり温くなっていた。


「淹れなおそうかなぁ」


えんぴつの先ばかり見ていたから目がすっかり疲れてしまった。目を堅く瞑ってうーんと伸びをする。えぇっと何時になったかな。


「良何かいてるの?」
「え!?」

後ろからぬっと真帆さんの顔が出てきて、ボクは思わずのけぞった。え!?え!?だって帰ってくる時間まだ先・・・あれ!?いつの間にかもう六時過ぎてるじゃないか!わわわわわ!ネーム!ネームみられる!!!!慌ててノートをパタンと閉じて、ヘラっと笑う。


「・・・家計簿」
「嘘だぁ。今の絶対絵だった!」
「わ、笑わない?」
「うん」
「嫌いにならない?」
「うん?」
「漫画、描いてるんだ」
「おー見せて見せて!」
「だ、だめ!」
「なんで?」
「まだ全然できてないんだ」
「そうなんだ?」
「描き始めたばかりだから」
「ふうん。それにしても突然だね」
「あ、学生の頃はね、描いてたんだけど。最近描いてなくて」
「わたし良が絵を描いてるの、初めてみたよ」
「うん。まだご飯できてないんだ。ごめん」
「謝ることじゃないよー。今日一緒に作ろうよ、ご飯」
「真帆さんがキッチンに立つとなぁ」
「なにそれーヒドイ」
「す、すいません」
「ううん。確かに言えてると思った」
「あ、お風呂も沸かしてない」
「じゃあわたしが沸かしてくるよ」
「・・・できるの?」
「失礼な!できますとも」
「じゃあお願いしようかな」
「うん」


リビングから出て行こうとする真帆さんが振り返って笑った。


「出来上がったら一番に見せてね」


ボクは「うん」と返事をする。心の奥底からふつふつと力が湧いてくる。

数分後、お風呂場から「良ーなんかお湯出てこないんだけどー」と真帆さんがボクを呼ぶ声が聞こえた。笑いをこらえて急ぎ足でお風呂場へ向かうボクの後ろを、猫が楽しそうについてきた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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