ベッドの上に正座のわたしと正座の鉄朗。わたしの硬く握られた拳が膝の上で小さく震える。鉄朗は手をベッドにつけて、わたしに頭を下げた。


「ヤらせてください」
「却下!」
「・・・」
「・・・」


このやり取りを何度繰り返したことだろう。覚えてない。
幼馴染期間が長くて、付き合うとかすっとばして結婚したわたしたちだから、セックスはおろかちゅーの一つもしていない。そりゃお互い大人ですから、初めてなわけじゃないし、それなりに経験を積んではあるわけですが。幼馴染期間がこう長く続いていると、どうも一歩踏み出せない。

わたしたちが結婚するって結論を出したところで、驚くことのなかった両親に、親族に、友達たち。「やっとか」「やっぱりね」「遅いよ」なんて言う声が多かった。簡単だと思ったよ。物ごころついたときから一緒にいる鉄朗と結婚するなら、楽なもんだと思ってた。全然そうじゃないことに気がついたのは、結婚してから。そうだよね、避けて通れない道を、すっかりわたしは忘れていた。


「なんでだよ」


わたしが「却下」と言うたびに鉄朗の顔はどんどん険しくなっていって、あからさまに不機嫌そうな顔をしている。鉄朗にも性欲があるように、わたしにだって性欲と言うものはあるわけですが、いかんせん恥ずかしい!恥ずかしくて仕方がない!!下着は大丈夫。上下セットのちゃんとつけてる。ムダ毛は・・・電気消せば、大丈夫。痛いのなんて大昔に済んだことだ。怖がることなんて何もない。何もないんだけどー!!!


「なんでも」


待ってくれている鉄朗にはとても感謝してる。同じベッドに寝てるけど、手を出してくることはない。優しい奴なんだ。だから甘えてしまってるわたしがいる。いつか、その日を迎えなくちゃいけないなんてこと、重々分かってる。分かってるよ。


「まさか真帆処女・・・」
「そんなわけないでしょーが。歴代の彼氏知ってるくせに」
「そりゃそうだよなぁ」
「うん」


もういい加減足も痺れてきたし、正座してるのも嫌なんだけど、こうしてないと鉄朗に負けてしまうような気がして。


「俺のこと嫌い「なわけないでしょ!」だよな」


きらいだったら 結婚なんてしてないよ。


「あああああ!もうわかった!わかったからそんな顔すんな!!」


ベッドについていた手を挙げて、鉄朗はガシガシと無造作にわたしの頭を撫でた。そんな顔って、どんな顔だよ。


「・・・待つしかないだろ。お前がそんなんじゃ」
「うう。すみません」


またしばらく、鉄朗を待たせてしまうことになる。きゅっと握った拳で目をこすると、かすかに濡れていて、泣きそうだったと言うことにその時気がついた。そんな顔って、こんな顔のことだったんだね。


「ハイ。じゃあもう寝よ」
「うん」
「腕枕」
「?」
「腕枕くらいならしてもいいか?」
「・・・うん」


恥ずかしくて死にそうだったけど、素直に鉄朗の腕の中に包まれると、安心して。


「わたしとおんなじにおいがする」
「同じ石鹸使ってるからだろ」
「そりゃそうだ」
「真帆が選んだやつ」
「うん」


なんでだろ。どうしていま うちらって結婚したんだって実感したんだろう。


(これが幸せの におい なのでしょうか)


鉄朗の首元に鼻をくっつけて大きく息を吸い込むと、鉄朗はわたしの髪の毛に鼻をくっつけて、大きく息を吸い込んだ。ねぇ、鉄朗も実感してる?わたしたち、ちゃんと夫婦なんだよ。

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