仕事から帰ってきたわたしを玄関まで迎えに来てくれたのは、フリフリのエプロンを身につけた敦だった。


「え、どうしたの」
「どうしたのって何が〜?」
「エプロンなんかして」
「お菓子作ってた」


そのフリフリのエプロンはわたしの友達が、結婚祝いと言うことでネタでわたしに送ってくれた物で、一度も身につけることなくしまいこんでいたものだった。だってさすがに純白、フリル三段重ねのエプロンなんてつけてキッチンに立てないよ・・・!というかよくそれ発掘してきたね敦。よくよく見てみれば敦はホイッパーを片手にボウルを抱えていた。今はどっちかと言うとおやつの時間よりも晩御飯の時間だと思うんだけど。

とりあえず靴を脱いで家に入る。鞄を書斎に置いて、脱衣所で楽な格好に着替えていると敦がひょこっとやって来て「バターとはちみつどっちがいい?」と聞いてきた。今パンイチなんだけどって言ってもまあ見慣れてるか。わたしのパンイチ姿なんて。「両方」とわたしが答えると敦は「欲張りだなぁ」と言ってキッチンへ戻って行く。着替え終わりダイニングへ向かう。漂ういい香りに誘われるようにわたしがキッチンへ訪れると、敦に「まだダメ〜」と言われて追い返されてしまった。仕方なく椅子に座って敦のことを見る。


「エプロン小さくない?」
「小さいんだよね〜パッツパツ」
「他にもエプロンあったでしょ?」
「見つからなかった〜」
「あ、別のとこにしまってるからか」
「大きめのヤツ今度出しておいてよ」
「うんそうする」
「もうちょっとでできるからねぇ」
「ありがとう。それにしても敦そのエプロン似合わないよ」
「だってこれ真帆のじゃん」
「そうでした」
「さっき真帆パンツだけだったじゃん」
「ブラもしてたよ」
「そこで、このエプロン」
「へ?」
「なんちゃって裸エプロン」
「ぶふ!」
「今笑うところじゃないと思うんだけど〜」
「笑ったんじゃない!吹いたの!」
「はい、できましたーっと」


キッチンから白いお皿に乗せられたふわふわのパンケーキを敦がテーブルに持ってくる。色とりどりのフルーツに、真っ白なホイップクリーム。たくさんかけられたはちみつ。バターの香り。きらきらしてる。


「パンケーキ、分厚い。お店屋さんのみたい」
「でしょ〜」
「と言うかよくフルーツ切れたね!」
「これくらい誰でもできるでしょ」
「うんうん。敦すごい。ありがとう」
「お礼は裸エプロンでいいよ」


自分の分のパンケーキを持ってきて、わたしの向かい側に座って敦は笑う。裸エプロンって、あの裸エプロンですよね。リボン結びとったらキャッ!っていうあの裸エプロン。敦がそんなものにご執心するとは思ってもみなかった。敦の性的趣向はいまいちわからない。裸エプロンのどこに魅力があるのか!この脇腹のお肉とか太もものお肉がある限りそんなハレンチな格好、できるわけがないのに。


「えーヤダよ」
「仮にも新婚だよ〜?」
「そうだけどさ」
「今のうちにこのエプロンしないと、するタイミングなくなると思うけど」
「・・・ずっとしまっておこうと思ったのに」
「楽しみにしてるから〜」
「ぜったい!しない!からね!」
「そんなこと言うならこのパンケーキあげない」
「ひどい!」


ダイエットしなきゃって思うのに、敦の作る甘いものには、逆らえないんだ。敦の無理難題な、お願いにも。

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