「もしもーし」
「今何時だと思ってるの?」
「エッと そのぉ・・・」


時計の針が深夜の二時を回ったころ、最愛の旦那様へ電話をした。

今夜は会社の新年会があって、わたしはさっきまで三次会にいた。四次会がこれから行われるらしいけれど、さすがにそれに参加する体力はもう残っていない。久しぶりに外で飲むものだからついつい飲みすぎてしまった感はあるけど、ちゃんと孝支には会社の新年会に行って来るって伝えてあったから、大丈夫だとは思ってたんだ、うん。何が大丈夫かはわからないけれど。


「二時を 過ぎたころかなぁと」
「はぁ」
「(溜息!!)」


さっきまでいい感じに酔っぱらってたのに、サーっと酔いが引いて行く。ああもしかしてわたしまずいことをしたのかもしれない。孝支の声は静かではあったけど、その静かさが逆に怖かった。電話の向こう側ではものすごく怒っているのかもしれない。


「もう終電もないでしょ?どうやって帰んの」
「タ、タクシー拾う」
「・・・俺が今から行くから、そこから動かないで」
「悪い よ」
「近くにコンビニある?」
「あ、セブンがある」
「どこのセブン?」
「市役所近くの」
「わかった。今から行くから、コンビニから一歩も出ないでね」


念を押されるように言われて、わたしはしぶしぶとコンビニに入った。少し酔いの残る頭じゃ商品を見たって雑誌を立ち読みしたって全く頭の中に入って来ない。アルコールが入ってるから体はポカポカとあったかい。でもま、酔いを醒ますためにコーヒーくらい買おうかな。あったかい缶コーヒーを手にする。小銭は・・・コートのポケットに入ってるはず。レジに缶コーヒーを置いて、ジャラリと小銭を並べる。ひゃく にじゅう えん、っと。レジのお兄さんが良い声で「ありがとうございましたー」と言った。まだ孝支は来ない。一歩も出るなと言われているし、店内で買ったばかりのコーヒー飲むのもどうかと思う。仕方ない。立ち読みをするふりをして雑誌を開く。しばらくするとチカッと目の前が明るくなった。ガラスの向こうの駐車場に、車が止まったらしい。目を凝らして見ると運転席に孝支が見えた。・・・怒っているようではないけど、なにやら不機嫌そうだなぁ。というか車乗ってきたってことは、孝支は家でお酒飲まなかったんだ。


助手席を一応コンコンとノックをしてからドアを開ける。わたしの方を一度も見ない孝支は「お待たせ」と言う。ああ、怒ってないけど、怒ってないんだけど、これは不機嫌だね。間違いない。


「ありがとう」
「・・・お酒臭い」
「すみません」
「何次会までいたの」
「二次会」
「・・・・」
「すみません三次会です」
「どうしてそんなしょうもない嘘つくかなぁ」
「ごめんなさい」
「いいよ。帰ろ」
「お願いします」
「もう心配かけさせないでよ」
「え、心配したの?」
「したよ。どっかの誰かにお持ち帰りされたんじゃないかと冷や冷やしてた」
「ばか!そんなことあるわけないでしょ!わたしは孝支の奥さんだよ!!」
「じゃあもうちょっと早めに切り上げてよ」
「う、 ごめんなさい。そうします」


付き合っているときの方が もっと気楽だったね。
結婚とは 指輪とは 一種の手錠だ。


「あ 孝支」
「なに?」
「缶コーヒーあげる」
「・・・ありがと」


コートのポケットに突っこんだままの缶コーヒーを渡すと、孝支は「ぬるいなぁ」と言いながら飲みほした。


「明日が休みじゃなかったら絶対迎え来なかった、俺」
「とか言っても絶対迎えに来てくれたと思うよ、わたし」


その手錠を心地よく思えることが 結婚なんだろうな。

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