残業してから帰る。時刻はすでに九時を回っていた。タツヤはもう先に帰ってると思い、わたしは急ぎ足で家へ向かう。窓から光が漏れていて、タツヤはもう部屋にいることを知った。エレベートのボタンを一度押してもすぐに降りてこない。意味はないことだと分かっているけど、わたしは何度も上りのボタンを押した。到着したエレベートに乗り込み、すぐにボタンを押す。部屋を目指して走ると、コンクリートを蹴るわたしのパンプスの音が廊下に響く。一応チャイムを鳴らしてから鍵を開けた。


「おかえり」
「っ!!??ぎゃああああああああああああああ!!!」


玄関でわたしを待っていたのはタツヤではなかった。アイスホッケーのお面をして、チェーンソーをギュイイインと煩く鳴らした男。後ずさりすると、すぐに背中に冷たいドア。もう下がれないことを焦った頭で理解した。どうしようタツヤはどこ?この男にころされてしまったの?わたしは静かに鞄からスマホを取り出して通話画面を開いて耳にあてた。


「もしもし警察ですか?」
「わっ!ちょっと待って!!」


チェーンソーを持った男は慌ててお面を外す。お面の下からのぞいた顔は、わたしのよく知る顔だった。


「・・・タツヤ」
「驚いた?」


「すみません、間違えました」と言い、電話を切る。すごく申し訳ないことをしました。警察の方。タツヤはにんまりと笑って、わたしの肩をポンと叩いた。はああと大げさな溜息をすると、タツヤは申し訳なさそうに眉毛を下げる。履き疲れたパンプスを脱いでひたひたとフローリングを歩く。そのわたしの後ろでタツヤは嬉しそうについて歩いた。


「・・・ビックリしたじゃん」
「うん。驚かそうと思って待ってたから」
「あーもう。・・・いつから準備してたの?お面とチェーンソー」
「今日」
「今日!?」


リビングに着いて、椅子に鞄をドサリと置く。まじまじとタツヤの顔を見たけど、その顔は真剣そのものだった。


「今日会社に行って、カレンダー見たら13日の金曜日でさ」
「あー・・・」
「13日の金曜日はジェイソンだから、仮装してみたんだ」


HAHAHAと笑いたげなタツヤを見て、わたしは肩を落とす。まったく、いつも突然こういうことするんだから。


「映画も借りてきたんだ。後で見よう」
「えーコワイからヤダ」
「だって次いつ13日の金曜日が来るかわからないじゃないか」
「・・・そうだけどさ」
「どんなに怖い映画でも、俺がついてるから大丈夫だよ」


タツヤが頼もしく言うもんだから


「そうだね」


なんだってわたしは、大丈夫なような気がするんだ。

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