新婚は新婚だけどさ、お見合い結婚だし政略結婚だし、アイもナニもないと思うんだよね。わたしたち。


だだっぴろい部屋に空しく響く安っぽい恋愛ドラマ。家事は家政婦のみなさんがやってくれるし、わたしはすることなく部屋でダラダラと過ごしている。家政婦のみなさんは9時から18時までいてくれる。それ以外はいない。ベビーシッター、というかわたしシッターみたい。家事が終わったらわたしの喋り相手にも、ゲームの相手もしてくれる優しい優しい人達。

年を重ねるにつれて時間が過ぎるスピードは速くなったと思ったのに、結婚してから急展開。時間が過ぎるスピードがガクンと遅くなって、わたしは退屈な日々を過ごしている。このまま年取るなんて、信じられない。楽しいことはなんにもない。結婚適齢期だとは思っていたけど結婚する気なんてサラサラなくて、相手だっていなくて、それがこれよ?親の会社は大きな会社ではあったけど、わたしは全く別のところに就職したのに、合併するからって、コレよ?時代錯誤も甚だしいわ。

六時半になれば旦那様は帰ってくる。旦那さまだからね、一応顔を合わせなくちゃいけないものね。ただいまとおかえりなさいを交わして、会話なんて無い晩御飯を乗り越え、別々にお風呂に入り、就寝。こんなにつまらないなら結婚なんてするんじゃなかった。勘当されてもいいから、親に反対するんだった。


ピンポンと挨拶代わりのチャイムが鳴る。モニタで確認しなくてもそれが旦那さまだということは安易に察しが付く。パチンとテレビを消して玄関へ向かう。すぐに扉が開き、赤い髪の毛をした旦那さまが「ただいま」と言った。「おかえりなさい」


きっと愛し合っている夫婦なら今日はこんなことがあったーだとか仕事がうまくいったーだとか話したりするんだろうけど、わたしたちにそんな会話はない。ただ同じ時間を一緒に過ごしているだけ。仮面夫婦って、こういうことを言うんだろうな。


でも 今日の旦那さまは違った。


「ショートケーキは食べられるかい」
「食べられますけど」
「帰りに買ってきたんだ。一緒に食べよう」
「え、あ。はい」


一緒に住むようになって一カ月目のできこと。
ああそうか。わたしはこの人に近づく気も、この人を知ろうと言う気も、なにもなかった。この人はわたしに近づこうと、わたしのことを知ろうとしているんだと、このときやっと気がついたんだ。


「あはは」


安っぽいドラマが頭の中でくるくる回る。一日のスピードをゆっくりにしていたのはわたしで、毎日を退屈にさせていたのも、まぎれもなくわたしだったんだ。あの安っぽいドラマだって、誰かが見たらちっとも安っぽくないのかもしれない。


「なんだ、そんなに嬉しいの?だったらもっと早くケーキ買ってくれば良かったよ」
「ありがとう。征十郎さん」
「どういたしまして」


そう言えば名前を呼んだのも初めてのような気がする。

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