新婚なのにさ、出張だってさ、彼。


「だから悪いと言っているだろう」
「わかったってば」
「じゃあその不機嫌そうな顔を何とかしろ」
「何とかしろって何とかなんないから不機嫌な顔してるんでしょーが」


部屋に溢れかえる段ボールの山。昨日引っ越してきたばかりの新しいわたしたちの家。お互い一人暮らしだったから良くある半同棲カップルだったけど、結婚を機に一緒に住むと決めて部屋探してやっと見つけて引っ越してきたって言うのに!なんなの真ちゃん。上司に嫌われてるの?なんでいきなり出張なのさ!片付けの終わっていない部屋でわたしは体育座りなる。真ちゃんは立ったままわたしのことを見ている。引越しするからわたしは有給使って休み取ったけど、仕事人間の真ちゃんは普通に仕事行って帰ってきた。それで言われた「明日から出張なのだよ」もう信じられない。やかんもフライパンも炊飯器もトースターも夫婦茶碗もどこにあるか分からない。それなのに、それなのに真ちゃんはわたしを置いて遠くへ行ってしまう。広い部屋に物があふれているのに、明日から真ちゃんがいないって思うだけですごくさみしく感じるんだ。


「まだ全然片付け終わってないよ」
「そうだな」
「そうだなって・・・」


真ちゃんはあっさりと言い、わたしは絶望する。一緒に住むってすごく幸せなことなのに、真ちゃんはそうは思わないの?引越しの準備、楽しく感じていたのはわたしだけだったの?明日からわたしはどうしたらいいんだ。


「たったの一週間なのだよ」
「七日だよ長い」
「これから先、二人で一緒にいる時間を思えば短いだろう」
「そうかも しれないけど」


そしてわたしはいつも最後は真ちゃんに言いくるめられてしまうのだ。なんで分かってくれないの。どうして伝わらないの。なんで真ちゃんはそんなに冷静なの。


「土産は何が良い」
「何も要らない」
「そんなこと言うな」
「じゃあご当地ビール」
「色気も何もないな」
「出した方が良い?色気」
「いらないのだよ」
「・・・早く帰ってきてね」
「一週間経ったらな」


一週間もあれば、仕事行きながらだって片付け終わってしまいそうだよ。二人で一緒に片付けしたかったのにね。一人ですることになりそうだ。わたし一人で全部こなしちゃったら、真ちゃんはどこに何があるか全然分からなくなるよ。そしたら逐一わたしに聞かなくちゃ。


「俺だって、一緒に片付けしたかったのだよ」
「・・・うん」
「次引越しするときは俺も絶対手伝うから」
「いつよ、次引越しするときって」
「一軒家建てるときに決まってるのだよ」
「建てられるの?一軒家」
「当たり前だろう。お前の旦那は誰だと思っている」
「真太郎さまさまです」
「わかってるなら良い」


立ったままいた真ちゃんはわたしの横に膝をついて、珍しくわたしの唇にキスをしてきた。なんだ、寂しく思うのはわたしだけじゃなかったんだね。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -