家に帰ると敦がいた。


「トリック オア トリート」


大きな体に魔法使いの格好はよく似合っている。威圧感半端ないけど。三角帽子が大きいのか、敦の頭が小さいのか、敦がわたしの顔を覗き込もとしたとき、ずるりと帽子がずり下がって敦の目を隠した。


「うわちょ、何すんの真帆ちん。何も見えねーし」
「わたしは何もしてないよ。帽子がずり下がっただけ」


わたしがそう言うと敦は「ホントだ」と言い帽子の位置を直した。
敦がココにいるのは何の問題もない。合鍵持ってるんだから。ブーツを脱いで敦と同じところに立つ。さっきよりは顔の位置が近くなったけど、やっぱりまだ遠い。敦のわきを通ってスタスタと部屋に行く。今日のご飯は何にしよう。


「真帆ちん、おかしは?」
「え?」
「おれさっきとりっくおあとりーとって言ったじゃん」
「言ってたね、そう言えば」
「おかし」
「ないよ」
「お菓子」
「ないってば」
「オカシ!!!」
「だからないって言ってるでしょー!」
「じゃあいたずらする」


わたしが「は?」と言うと敦は「だってお菓子ないんじゃいたずらするしかねーし」とわたしを横抱きにした。俗に言うお姫様だっこだ。さすが敦。いとも簡単にわたしを持ち上げるとは。じゃなくて!!


「おおおおおろして!重いでしょ!?早くおろしてよ!」
「重くねーし、おろさない」
「あ、お菓子あったよ敦。鞄の中に飴が」
「もうおせーし」


鞄に入ってる飴はたった一粒だから、敦には足りないだろう。それでも飴はお菓子に入るはず。敦はわたしをおろすことなくすたすたと歩いてベッドにたどり着くとぽいっとわたしをベッドにおろした。もっと丁寧にわたしを扱ってほしいんだけど。やっと解放されたから立ち上がろうとした。でもわたしが立ちあがる前に敦は被っていた三角帽子をわたしの目が隠れるまで被せた。目の前が真っ暗になったわたしは立ちあがることができずに、そのままストンとベッドに座ってしまう。


「お菓子くれなかった真帆ちんには大人のいたずらしまーす」


嬉々として敦は言う。わたしのワイシャツのボタンが一つ、外れたような気がした。


「どうせわたしがお菓子あげても いたずらする気だったくせに」


三角帽子をあげて敦の顔を見るとにんまりとして「せーかい」と言った。


「だっておれ、真帆ちんがお菓子よりも甘いこと知ってるし」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -