雨の日、少年を拾った。拾ったと言うか、勝手についてきた。アパートのドアの前で立っていると、何も言わずわたしの後ろでドアが開くのを待っているようだった。ストーカーか?と思ったがそうでもないらしい。もしストーカーだったらわたしに気がつかれないようにするはずで、こんな風に隙だらけにしてたら襲ってくるはずだから。少年の気配はあからさま過ぎる。後ろをこっそり見て少年の顔を見てみるが、知らない顔だった。誰だよ君。雨が降っているっていうのに傘もささずに突っ立ってるなんて、不審すぎる。びっしょりと全身濡れてしまって、明日風邪でも引くんじゃないのかなぁ。


「オネーサン」


不意に呼ばれて驚き鍵をガシャ、と地面に落してしまう。慌てて拾おうとしたが、鍵はするりと少年の手に取られてしまった。「あ、ありがとう」と言い、その鍵を受け取ろうとするが、少年は一向に鍵を渡してこない。ハテ、と首をかしげて少年を見る。わたしの知り合いにコーンロウなんていないぞ・・・。

少年はガチャリとわたしの部屋のドアの鍵を開けて、ズカズカと部屋に入り込む。わたしの「ちょちょちょっと!!」という制止の声は全く耳に入っていないようだった。


「シャワーかして」


まだ外にいるわたしに声をかけて、少年はお風呂場を探しているようだった。急いで部屋の中に入り、「君だれ!?出て行ってよ!!」と言うが、全く聞きもしない。バタンバタンと扉を開け閉めしてお風呂場を探す。やっとお風呂場を見つけ、ぽいぽいと服をわたしに投げつけ、ピシャンと扉を閉めた。中から鍵がかけられてしまって開けることができない。わたしはがっくりと肩を落とし、渋々狭い8畳間に向かった。投げつけられた服をハンガーに掛ける。ぽたぽたと水滴が垂れてしまうからベランダに干すことにした。この雨じゃ当分乾きそうにもない。


困った。見ず知らずの人を部屋に入れてしまった。落ち着こう。とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こう。ヤカンに水を入れて火にかける。ガリガリと豆をひいて、フィルターセットして、コーヒー淹れて、と。一連の動作を経てコーヒーを喉に通すと落ち着くことができた。すると「服かしてー」と声が聞こえて、わたしはお風呂場まで走った。腰にタオルを巻いただけの少年が現れて、危うく倒れるところだった。


「服は?」
「ちょ、あのさ、君なんなの?」
「さすがにオネーサンのは着れそーにないし、彼氏の服とかねぇの?」
「彼氏はいません」
「・・・」
「ちょっと待ってて」


諦めて8畳間に戻る。タンスの奥底から元彼の服を取り出して少年に投げつけた。


「着れば?」


少年から目を背けて冷め始めたコーヒーを飲みに行く。あーもうなんなのこれ!!


「彼氏いないなんて嘘じゃん」


わたしと同じ石鹸の香りに包まれた。まだ乾ききってない髪の毛がわたしの耳にくっついて気持ちが悪い。首に回った腕には力が全然入ってないのに、わたしを捕まえて離さない。「何すんのよ」と静かに言って耳をつまんだ。「いだだだだだ」と言いながら少年はわたしを解放する。


「あれ、コーンロウは?」


お風呂に入る前はコーンロウだったはずなのに、ほどかれてもう長い髪の毛のまま。


「ほどいた。かゆかったし」
「へぇ」
「俺にもコーヒー淹れてよ」
「ヤダ。帰れよ。誰だよホント。帰れ」
「帰るとこないし、しばらく置いてよ」
「君をウチに置いておいてメリットがないのでお断りします」
「メリット?あるよ」


ないない。うん、ないない。全くもってない。


「オネーサン溜まってるんだろ?相手してやるよ」
「偉そうだねぇ」
「メリットあっただろ」
「ないよ帰れ」


帰れ セックスしよの言い合いが続いた。言い合いに疲れたのか少年は「勝手にコーヒーもらうわ」と言い勝手にコーヒーを淹れた。


「それ飲んだら帰ってね」
「シャワー貸してくれたお礼させてよ」
「いらないよ」
「そんなこと言わずに」


飲み終わったコーヒーカップをテーブルに置き、少年が着ていた服を取りにベランダへ向かう。いや、向かおうとした。鍵を開ける手を抑えられ、肩を抱かれる。今日二度目の「何すんのよ」を言うつもりだったが、それはできずに終わる。


「コーヒーの味がする」


少年はそう言ってもう一度唇を近づけてくる。くっそ やられた。終わることがない中身のないキスに耐えられなくなって、ずるずると座り込むわたしに勝ち誇った笑みを浮かべるこの男は相当 悪い男だ。

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