「じゃ、行ってくる」
「・・・うん」
「なんて顔してんだお前は」
「どんなかお」
「ぶさいく」
「なにおー」
「・・・今度こそ、行くわ」
「さっさと行けこの色黒」
「うっせ。悪いか」
「悪くない」
「すぐ帰ってくるって」
「二カ月は、すぐとは言わないよ」
「あっという間だ。それにおまえには仕事もあんだろ」
「あるけど、大輝がいないよ」
「いるだろ、アメリカに」
「わたしは、日本だもん!」


ふんぬーっ!!!と怒って見せる。
そうだ、わたしは怒っているのだ。二カ月もわたしのことをほったらかしにする彼氏に対してものすごく怒っているのだ。アメリカへ、遠征しに行くらしい。バスケ馬鹿め。確かに大輝からバスケ取ったら何も残らないから、バスケは思いっきりさせたほうが良いの、わかってる。でも、それでも、二カ月は、長い。わたしにだって、わたしの生活があって、仕事があったり、友達と遊んだり、好きな映画見て、好きなご飯を食べる。でもそこには大輝がいない。大輝がいるのといないのでは、とても差がある。大輝はそれが、わかっているのだろうか。
 大きなスーツケース。全日本のジャージに身を包んだ大輝は“バスケットマン”そのもので、わたしには遠く見えた。でも行っちゃヤダなんて言えるはずのないわたしは、ふくれっ面で大輝を見送ることしかできない。しぶしぶ立ち上がり、大輝の横に並ぶ。相変わらずおっきいなぁ・・・。


「浮気は、しねぇよ」
「そんな心配してないよ」
「お土産は何が良いか考えてあんのか?」
「ウイニングボール」
「野球じゃねぇんだから」
「そーですね」
「で、お土産は?」
「・・・無事に帰ってきてくれたら、それで」
「わかった」


 大きい図体をした大輝にこのアパートは小さすぎる。大輝はスニーカーを履いて、わたしの方に向き直った。縮まる身長差が、少し新鮮だ。


「俺が世界で通用するようになったら、」
「うん」
「そしたら、」
「なに?」
「アメリカまでついてこい」
「・・・うん」


 真っ赤な顔して大輝は急いで玄関の扉を開いて、そして、閉じた。いってらっしゃいのチューができなかったことに、わたしは少しだけ後悔して、そして気づくのだ。さっきのはもしかしたら、プロポーズなのかもしれない、と。言った後の大輝の真っ赤な顔と、焦り具合を思い出して、少し笑った。

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