岩鳶を離れなくちゃいけない日がついにやってきた。縁側に座ってぼんやりと空を眺める。親から送られてきた飛行機のチケットを片手に、わたしは今年の夏のことを思い返す。色んな事があったなぁ。スマホがなくても大丈夫だと意気込んで岩鳶に来たはいいけど最初は慣れなくて、徐々に慣れて行った。四人に「携帯は持ってないのか」と聞かれたけど、覚えていた自分の番号を伝えることはなかった。もうすぐおばあちゃんちを出なくちゃ。電車に間に合わなくなる。


「おばあちゃん、来年もまた来ていい?」
「もちろん」


おばあちゃんの返事を聞いて安心したわたしは立ち上がり、重い荷物を背負った。来たばかりのころよりも涼しくなった風がチリリンと風鈴を鳴らす。良く歩いた駅までの道も来年までお預け。道なりに咲いていたひまわりもすっかり頭を垂れている。空も高くなった。親元に帰ることは当然のことで、覚悟していたはずだ。またわたしは普通の高校生に戻って、そんじょそこらの女子高生と変わらない日常を過ごすことになる。ここに来る前のわたしに戻るだけだ。


本当に?


ここに来る前のわたしに 戻れるわけがない。
わたしの足取りは限りなく重かった。道路のアスファルトもわたしが岩鳶から居なくなってしまうことが嫌で、こんな風に熱を持っているのかもしれないと思うくらいだ。それなのに駅の改札は大きな口を開けてわたしを待っている。


「真帆ちゃん!」


不意に渚くんの声が聞こえた気がした。電車に吸い込まれる前に、わたしは急いで振り返る。そこにはこの夏過ごした四人が肩で息をして立っていた。


「なんで行くって言わなかったんだよ」
「マコちゃん」
「水臭いだろ」
「ハルちゃん」
「見送りくらいさせろ」
「凛ちゃん」


わたしはこの夏で、少しでも成長できたかな?小学生のころよりも、ずっと大人になっていたかな。ねぇ、みんなは久しぶりに会ったわたしのことをどう思った?


「また、来年帰ってくるんでしょ?」
「待ってるから」
「帰ってくるときは一報入れろよ」
「アポ無しは許さねぇからな」


プルルルルルルと電車が発車する合図が響き渡る。言いたいことは山ほどあった。答えたい言葉もたくさんあった。でもその時間はわたしにはない。


「いってきます」


わたしがそう言うとみんなは満足したように「いってらっしゃい」と言う。小学生の頃の四人と重なって見えた。

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