隣町で盆踊り祭りをするという情報をゲットしたわたしは、近所にあるハルちゃんの家を目指した。インターフォンを押すとカラカラカラと引き戸が開いて、中から部屋着を着た気だるそうなハルちゃんが出てきた。


「何か用か?」
「夏祭り行こうよ」
「岩鳶の夏祭りはまだ先だろ」
「隣町で盆踊りのお祭りしてるんだって」
「行かない」
「行こうよ」
「行かない」
「行こうよ」
「しつこい行かない」
「わたし一人で行って迷子になって帰って来れなかったらハルちゃんのせいにしてやる」
「・・・わかったよ」


「準備するからそこで待ってろ」とハルちゃんが言ってピシャンと引き戸が閉まった。うーん。機嫌悪いなぁ。すぐにもう一度引き戸が開いてちゃんと外行きの格好をしたハルちゃんが出てきた。ちゃんとしたらハルちゃんはかっこいいのに。どこか抜けてるって言うか、どこか変。駅まで歩いていき、電車に乗り込む。ハルちゃんはそんなに喋るひとじゃない。二人並んで座っても、喋ることはあまりなかった。降りた駅は凛ちゃんの実家がある町の駅で、ハルちゃんはさっきよりも機嫌を悪くする。渋々改札を出たところで、思わぬ人と出くわすこととなるのだった。


「ハル・・!?」
「凛」
「わたしもいるよー」
「真帆。お前ら何やってんだ」
「今日こっちで盆踊り祭りがあるって聞いて」
「あぁ、あれか」
「でも場所が分からないんだよね。凛ちゃん連れてって」
「嫌だ」


お盆だからなのか、凛ちゃんは実家に戻ってきたらしかった。ジャージと言う身軽な格好に、大きい荷物を抱えていた。ハルちゃんはさらに不機嫌な顔になる。顔に出やすいんだから、全く。


「その荷物持ってあげるから一緒に行こうよ」
「嫌だ」
「ハルちゃん、もしかしたらお祭りで浜焼きあるかもよ」
「浜焼き・・・サバはあるのか?」
「あるかもしれないよ」
「俺はいかねぇからな」
「行くんだよ、ほら荷物一個貸して」
「勝手に取るんじゃねぇ!」
「凛ちゃんち覚えてるから、わたし。ほらほら行くよ」


とりあえず大きな荷物を凛ちゃんちに置きに行く。乗り気じゃない凛ちゃんだったが、観念したのか、「着替えてくるから待ってろ」と言って、自分の部屋に消えて行った。江ちゃんはすでに友達とお祭りへ出かけたようで、家にはいなかった。お祭りで会えたらいいなぁ。ハルちゃんはすっかりサバの串焼きの事で頭がいっぱいらしく、お花を周囲に咲かせていた。うん、とってもわかりやすい。ジャージではないけれど楽な格好をした凛ちゃんがやってきて、「さっさと行くぞ」と言い、足早に家を出た。慌てて着いて行くと凛ちゃんは歩幅を合わせて歩いてくれる。なんだかんだ言って凛ちゃんはやっぱり優しい。隣町でも意外と大きな神社に着くと、浴衣を着た人が大勢いて、流れている民謡に合わせて踊っている。おお・・・すごい・・・。民謡なんて踊れないから、憧れる。みんなどこで習って踊れるようになるんだろう。やぐらの上でおじいちゃんとおばあちゃんが民謡を歌っている。聞き慣れない音楽にわたしの体は乗ることができない。両脇を見ると二人は音楽に合わせて小さく体を揺らしている。


「ねぇ、もしかして二人踊れるの?」
「踊れる」
「俺も踊れる」
「なんで?」
「小学生の頃に習っただろ」
「わたし習ってないよ」
「真帆はこっちの学校行ってねぇからな」
「凛ちゃんだって一年だけじゃん」
「一回習えばすぐ覚えるだろ」
「さすが凛ちゃんすごーい」
「なんかむかつく」
「サバの串焼きはどこだ」
「探そうか」
「つーかあるわけねぇだろ浜焼きなんて」
「それもそうか」
「真帆だましたのか」
「ごめんハルちゃん。でもほら、たこ焼きあるよ」
「中にサバは入っているのか?」
「普通に考えてタコだろ」
「ハルちゃんってサバに恋してるよねー」


輪になって踊っているところに、わたしは入ることができない。ハルちゃんと凛ちゃんは入って一緒になって踊れるんだろう。いいな。わたしは溶け込めない。踊ってる人たちを見て、必死に頭を働かせて覚えようとする。そんなわたしに気がついたのか、二人は踊り方を教えてくれた。・・・なんだかんだ言って、ふたりはやっぱり仲が良いんだと、わたしは思う。


「だから足が違うってさっきから言ってんだろ!」
「え、だってハルちゃんがこうって言った」
「言ってない」
「ええええ!」
「もう一回やってやるから覚えんだぞ」
「わかった!」
「ハルも間違えんじゃねぇぞ」
「間違えてない」
「あはは」
「笑ってないで覚えろよ」
「すみません」
「真帆は気にすることない。凛の教え方が下手なだけだ」
「コノヤロウ・・・」
「あはは」
「「笑ってないで覚えろよ」」
「本当にすみません」

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