親からスケッチブックが届いた。


「美術の課題・・・忘れてた・・・」


苦手すぎる写生。やりたくなさすぎる。そう言えば・・・ハルちゃんは絵描くの上手だったような。わたしは思い立ち、岩鳶高校へ向かった。プールに行けば多分、ハルちゃんはいることだろう。岩鳶高校へ行ったことは一度もない。わからないから町の人たちに聞きながら向かった。みんな優しく教えてくれて、迷うことなく岩鳶へつくことができた。夏休みだし、ジャージで来ている人が多く、私服で来たわたしのことを誰も止めることなく、岩鳶高校へ侵入することができた。あとはプールを見つけるだけ。うろうろと校内を歩きまわり、やっとの思いでプールにたどり着く。ばしゃばしゃと水の跳ねる音が聞こえて、わたしは早足でプールへ向かう。そこにはぷかぷかと浮いているハルちゃんがいて、あーやっぱり人魚みたいだなぁと思った。プールサイドには人影がなく、ハルちゃんしかいなかった。わたしのことに気がついたのか、ハルちゃんは泳いでわたしのところまで来て、「あれ、いる」と言った。いるってどういう意味だろ。


「ハルちゃんしかいないの?」
「みんな昼ご飯食べてる」
「もうそんな時間かハルちゃんは?」
「食べた」
「早いね」
「で、どうしたんだ?」
「あ、絵を描くコツを教えてもらおうと思って」
「そんなの・・・感覚で」
「もっと具体的に」
「そんなこと言われても」


バシャ
ハルちゃんがプールから上がって、「スケッチブック、見せてみろ」と言う。「イヤ」と答えると、有無も言わさない表情をハルちゃんがするもんだから、渋々とスケッチブックをさし出した。わたしはプールサイドに座って、足だけプールに入れてぱちゃぱちゃと小さくバタ足をする。見せたくは、なかった。


「ヘタクソ」
「うっ」
「俺も美術の課題残ってるから、部活終わったら一緒にするか」
「いいの!?」
「別に」
「ありがと!」
「部活終わるまで待ってるか?」
「うん」
「暑いぞ」
「それはやだなぁ」
「帰ったら真帆んち迎え行く」
「何時くらい?」
「5時とか」
「5時って暗くない?絵、描けるかな、風景画が課題なんだけど」
「まだ平気だろ、描ける」
「わかった。じゃあ待ってる」
「またな」
「うん、またとで」


プールサイドから立ち上がると、ハルちゃんはプールに飛び込んだ。そしてまた人魚みたいに、きらきらと泳いだ。

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