昔よく遊んだ三人には会えたのに、あと一人、ハルちゃんには一度も会っていない。きっとハルちゃんの事だから泳いでいるに違いない。岩鳶高校へ行けば会えるんだろうけど、それはなんか嫌だった。家も割と近い方だし、会えないってことはないと思いたい。夏休みの課題はもう終わってしまって、やらなければならないことは残っていない。夏のドラマもわたしに合わない物ばかりで見る気にはなれないし、図書館から借りてきた本はすべて読み切ってしまった。明日は図書館休刊日だからどうしようか。明後日図書館行って本借りてくるしかないや。蚊取り線香の香る縁側でわたしはごろんと横になった。街灯も少ない、灯り自体が少ない。だから星が良く見える。もし流れ星見つけることができたらハルちゃんに会えるようにってお願い事をしようかな。

いつの間にか眠りこけていたらしい。背中の痛みで目が覚めた。おばあちゃんがわたしにタオルケットをかけてくれたようだ。蚊取り線香はすっかり消えている。わたしは立ち上がり伸びをして首をまわした。うう背中が痛い。今は何時かと時計を見ると深夜の2時を指していた。夏と言えど、2時はまだ真っ暗だ。うーん目が醒めちゃったなぁ。散歩でもしよーか。夜中の散歩なんて、ここだからできることだと思う。同じ日本なのに、ここだけ楽園みたいに平和だ。地元にいたら夜中に出歩くなんて危ないから絶対にしない。サンダルを履いて静かに玄関を出た。


海に近づくにつれて潮の香りが強くなっていく。海からの風が冷たくて気持ちが良かった。誰ひとりいない夏の海に吸い込まれそうになる。灯台の光が海を照らして、誰かに合図を送っているようだった。波の満ち引きの音が耳に心地いい。砂浜に踏み込むと、冷たくなってしまった砂がわたしのサンダルを受け入れた。波の音にまぎれて、何かが海水を弾く音が聞こえた。バシャバシャと跳ねる音のするところを探す。


「ハルちゃん」


姿が見えなくてもわたしにはわかった。ハルちゃんが泳いでいる。

ざばっと海から顔を出したその人は、月の光を反射して、きらきらと光っている。人魚みたいだよ、ハルちゃん。

波をざぶざぶと蹴って、その人が砂浜を目指して歩いている。立ち止まったわたしもその人に近づくべく砂浜を蹴った。


「真帆か?」
「ハルちゃん」
「元気そうだな」
「うん。ハルちゃんも」


人魚姫の王子様は損をしてるよ。なんで人魚姫が介抱してくれてるときに目が醒めなかったの。その時に目が醒めたら確実に、王子様は人魚姫を好きになったに違いないのに。

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