渚くんから凛ちゃんが日本に帰ってきたって言っていたから鮫柄学園とやらに行こうと思い、電車に乗った。無人駅から乗り込んだし、電車賃は電車に乗り込んでから払うわけだけど、乗り込んでから思った。どこで降りればいいんだろう・・・。夏休みにも入っているためもあり、電車内に人の数はない。どうしようかと考えながら流れて行く景色を茫然と見ている。乗り込んだ駅の名前だけは覚えているからちゃんと帰られるとは思う。うん。だけど凛ちゃんに会えるかどうかは、不明だ。聞き慣れない駅の名前がアナウンスで耳に入って行く。だけど右から左へ抜けて行くだけだ。困った。


どうしよう。


とある駅に着いて、見たことのある人物が乗り込んできた。でもその人物が本人かどうか、わたしは見極めることができない。まじまじと観察していると、わたしの視線に気がついたのか、わたしの方をちらりと見て、驚いた顔をした。「あれ、真帆か?」小さな声が聞こえて、わたしの思ったことは間違いではなかったと知る。


「やっぱり凛ちゃんだったのか」
「ちゃん付けはやめろよ・・・」


わたしのことに気づくなり、わたしの隣にどかっと座り込んだ。スポーツバッグには鮫柄学園と書いてある。凛ちゃんは偉そうに足を組んで、さっきわたしが凛ちゃんにしていたように、わたしのことをまじまじと見てきた。いや、そんなに見られると照れるんですけど・・・。


「変わってねぇな、お前」
「凛ちゃんだって変ってないよ」
「うっせ」
「背は高くなったみたいだけど」
「当たり前だろ」
「そうだよね、もう17歳だもんね」
「帰ってきてたのか」
「あぁ・・・うん」


渚くんも言ってたけど、わたしが帰る場所はココなのかなぁ。


「凛ちゃんも。おかえり」
「・・・ただいま」


なんだか二人照れ臭くなって、顔を合わせず、また流れて行く景色を見つめる。聞きたいことも言いたいことも山ほどあったんだけど、それはできずにいた。マコちゃんと渚くんは小学生の低学年のころから知っていた仲だから覚えていても当然・・ではないけど、思い出が多いから、きっとすぐに思いだせるんだけど、凛ちゃんはひと夏しか一緒にいなかったから、覚えていてくれるかどうか、不安だった。わたしはしっかりと覚えていたけど。覚えていてくれて、嬉しかった。


「つーかなんで電車なんかに乗ってんだよ」
「いや、凛ちゃんに会いに」
「はぁ?」
「オーストラリア行ったのは知ってるんだよ。おばあちゃんが手紙で教えてくれたから。帰って来たの教えてくれたのは渚くんだけど」
「お前のおばあちゃん、ホント顔広いな」
「うん」
「お前こそ、なんで帰って来たんだよ」
「うーん。なんとなく」
「あ、そ」


ほら、また沈黙。
嫌じゃないんだけど、嫌じゃないんだけど。


「凛ちゃんこれからどうすんの?」
「実家帰る」
「あ、そうなんだ」
「お前はどうすんだよ」
「凛ちゃんに会うって目標達成しちゃったからなぁ」
「・・・うち来るか?江にもまだ会ってねぇんだろ?」
「いいの?」
「いいに決まってんだろ」


凛ちゃんは、初めて会った日と変わらない、屈託のない笑顔をわたしに見せてくれる。車掌さんが歩いてきて、わたしは凛ちゃんの降りる駅名を言って、チャリンとお金を払った。

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テーマ「人外ファンタジー」
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