この間は夕方に海へ行ったから、今度は海水浴客がいる時間に海へ行ってみようと思い、おばあちゃんちを出た。アスファルトから立ち上る熱気にやられつつ歩いて海を目指す。ここで過ごしていたのは夏だけだったから、夏以外の岩鳶をわたしは知らない。太陽の熱がじりじりと肌を焼いている。日焼け止めでも塗ってくるべきだったか。夏だし日に焼けるくらいがちょうどいいか。岩鳶のみんなは優しくて、見ず知らずのわたしにも挨拶をしてくれる。すごいなぁ。照れ臭くなりながら返事をするとみんな一様に笑ってくれる。あったかいところだよ、ここ。


やっとの思いで海へ辿り着くと結構な数の海水浴客がやってきていた。すごい熱気に圧倒され、なかなか砂浜に踏み込むことができない。・・・来年は水着、買おうかな。そうしよう。わたしのように一人で海へ来ている人はいないようで、その時点でもう海に入る勇気は出ない。どうしようかどうしようかと考えて、結局縁石に腰を下ろすことにした。自分の膝で頬杖ついて、海水浴客が賑わう海を見ている。あ〜気持ちよさそうだなぁ。わたしも海入りたいなぁ。


「あれ!?真帆ちゃん!?」


海を眺めているわたしの背後からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえて、振り返るとそこにはふわふわの髪の毛にくりくりの目をした男の子が立っていた。わたしは目を細めてじーっとその男の子を見つめる。どこかで見たような・・・。あれ、もしかして、もしかしなくても、


「渚くん?」


立ち上がり渚くんの横に並ぶと、彼はひまわりみたいに笑って「うん!」と大きく頷いた。わーわー小学生の頃はわたしより小さかったのに、いまじゃわたしよりも背が高くなっている。


「大きくなったなぁ・・・」
「真帆ちゃんおばあちゃんみたいなこと言ってるよ」
「だってほら、わたしより小さかったじゃん」
「へへ、背、高くなったでしょ!」
「うん」
「マコちゃんから真帆ちゃんが帰ってきてるって聞いてたからもしかしたらーと思って!」


帰ってきてる、か。


「うん。渚くんはこれから・・・学校?」


よくよく渚くんを見てみると制服を着ていて、えへんと胸を張った。「これから部活なんだ!」そういえば、あの四人は同じスイミングスクールに通っていたから、部活と言えば水泳なんだろうな。海がこんなに近くにあるのに、プールで泳ぐってどんな感じなんだろう。きゃいきゃいと喋っているとチリリンと自転車のベルの音が聞こえて、その方を向く。麦わら帽子をかぶったおじさんが自転車の荷台にクーラーボックスをくくりつけていて、「アイスはいらんかねー」と言った。その一言で渚くんは目をきらきらさせてわたしに言った「食べない!?」


何も持たずにおばあちゃんち出たからなぁ・・お財布すら持ってきていない。食べたいけど。何も言わずにいると渚くんはてきぱきとお金をおじさんに手渡して、アイスを二本受け取っていた。そして一本をわたしに寄越すと、「再会祝い!」と笑った。


「ありがとう」
「ううん。溶けちゃうよ、早く食べよう」


薄い水色をしたアイスを口に含む。アイスと言うかシャーベットだな、これ。・・・なつかしいや。ソーダ味のアイスを食べて、わたしは一瞬小学生の頃に戻ったような気になった。

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