ムードなんて考えられない。お洒落なレストランを予約する甲斐性も、度胸もない。色男に相談したらきっとからかわれるからぜってーシネェ!プロポーズしようと思ってから何日経った?いや何週間?俺の度胸のなさったら、ホント、情けないよネェ・・。今日だって早めに仕事切り上げようと思ったのに、結局残業してるんだもん。いつになったら帰れるの?俺。いつになったら結婚しようって言えるの?俺。早く帰ってアイツを抱きしめてやりてーのになぁ。山積みの仕事に大きなため息をついた。喫煙室に行って、スマホを見ると彼女からメールが来ていた。今日は美味しいお鍋を作って待ってますって、鍋の具材の写真と一緒に。

気づいたら送信してた。
結婚しよう って。

あああああ間違い!それなし!メールでプロポーズなんてナシだろ!!慌てて電話をかけると、ワンコールで彼女が受話器を取った。

「馬鹿!」

大きな大きな彼女の声。スマホを耳から引き離して、キーンと言う痛みに耐えた。反対側の耳にスマホをくっつけて、「さっきのあのメールなしにしヨ」と言うと、電話越しにぐずぐずと、鼻を鳴らす音が聞こえて、俺は背筋を伸ばした。

「なかったことに、するの?」
「・・・」
「ヤスくんがわたしにプロポーズしたこと、なかったことに、なるの?」

彼女の名前を呟くと、彼女は盛大に泣きだして「そんなのヤダよぉぉ」と言った。俺の馬鹿。

残業放り投げて、俺と彼女の小さなお城へ行く。愛車のビアンキに跨って、必死にブン回した。今の俺、多分人生一番のタイムが出せると思うよ。汗でべちゃべちゃの背広を脱ぎながら、狭い階段を上る。ガチャガチャと音を鳴らして、鉄のドアを開けた。

「俺と、結婚してください!!」

玄関入ってすぐそう叫ぶ。なんだ、別にお洒落な場所じゃなくたって、夜景の奇麗に見えるレストランじゃなくたって、二人でいれば特別な場所なんじゃん。
彼女は泣きじゃくりながら俺に抱きついた。しっかり彼女を受け止めると、彼女は「うん!うん!」と何度も何度も頷いた。俺達、結婚します。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -