1日がこんなに長いものだとは、知らなかった。
いつも近侍で、名前を呼べば返事をくれていた薬研がいない。そりゃそうだ、彼は「修行に行きたい」とわたしに言って、そしてわたしは「いってらっしゃい」と返事をしたから。
ごろりと畳の上にねそべって大の字になる。天井の格子模様を数えて、究極の暇つぶしをした。本丸の内番も、遠征の手はずも、出陣の支度も練度が高いみんなのことだから、わたしが口出しせずともみんなが回してくれる。政府からの書類や、財務関係の仕事はあるけれど、忙しいのは結局月末月初で、中旬の今はさほど忙しくはない。

まさか、薬研がいない1日が、こんなに長いものだなんて。

1日一通届く手紙じゃ全然足りない。普段の薬研を十分の一も感じられやしない。声が聞こえない、匂いがしない、あたたかくない、冷たくもない。薬研がいないとわたしの五感の機能が失われてしまうらしい。
弟の代わりにはなれないかもしれませんが、そう言って薬研が留守の間、わたしの近侍についてくれたのは薬研の兄である一期一振だった。襖の向こうで彼の気配がふっと消える。「一期?」わたしが声をかけても返事がない。どうやら、どこかへ行ったみたいだ。本丸の中の離れがわたしの部屋だ。今なら大きな声を上げたところで、誰にも気がつかれないだろう。わたしは大きく息を吸い込んで、口を開いた。

「あああああああ薬研!!はやく帰って来てよ!!!!」

彼がいない一日は退屈で、長くて、普段自分がどうやって過ごしていたか、分からないほどだ。ご飯も美味しいしお酒だって美味しい。庭の柿から甘い香りがして、もいで食べてみたけど、絶対薬研と食べた方が美味しいよ。

さみしいよ。

「あいたいよ、やげん」

会いたい。

「ずいぶん大きい声だったなぁ、大将」
「ふぇっ!?」

気配がなかった、襖の向こう。久しい声が聞こえた気がした。瞬間、スパーンと勢いよく襖が開いて、キラキラしたものを背負った、彼が立っていた。いや、実際は背負ってはいないけど、彼の背後が、後光が差したみたいにキラキラ光って見えた。わたしは飛び起きて、彼の足もとまでずるずると四つん這いで這って行く。彼はしゃがんでわたしの頭を撫でると、「帰って来たぜ、大将。俺がいなくて寂しかったか?」と、いつもよりも三割増しくらいに男前な顔して、笑った。

「さ、さみしかった」
「そうかそうか」
「薬研がいないとね、一日がすごく長かった」
「あぁ」
「庭にね、柿が実ったよ、後で二人で食べよう」
「わかった」
「今日は薬研が帰って来てくれたから、修行お疲れ様会しよう。宴会だ」
「いいな、それ」

ああ、薬研。薬研がいる。ちゃんといる。

「・・・薬研」
「なんだ?大将」
「おかえり」
「・・・あぁ、ただいま」

ねぇ、薬研。髪の毛伸びた?

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