カラン。

疲れたからコーヒーでも飲もうと思い給湯室へ行った。自分のマグカップにパラパラと粉を入れてポットのお湯を注いだ。一口すすると暑くて苦くてこれは飲めない。砂糖はどこだ。戸棚を探したとき、カラン、とシンクに指輪が落ちた。

「え」

ぽかーんとその指輪を見つめる。さっきまで俺の左手の薬指にあった結婚指輪。

「ウソォ・・・」

俺の指から抜け落ちたその指輪。ぴったりはまっていたはずなのに。どうして落ちた。なんかあんのか?何かの予兆なのか?やめてやめて、怖い怖い、なんか嫌なことが起こりそう。そそくさと指輪をはめなおして、砂糖のことをすっかり忘れた俺は、マグカップをデスクに持って行った。ああ、苦い。


「ってことが今日あってさ」

会社で会った一部始終を真帆に伝えるとぱちくりと瞬きをして、「そう言えばヤスくん痩せたよね?」と言った。

「え、そォ?」
「うん。やっぱりわたしお弁当作るよ」
「気持ちは嬉しいケド・・・」
「けど?」
「真帆の負担が増えるのは嫌だし」
「じゃあ朝ご飯食べる?」
「ウッ、朝ご飯食べるのは・・・」
「じゃあお昼ご飯しっかり食べないと」
「食べてるヨォ」

不満げな顔してる真帆の頭をぽんぽんと撫でる。真帆だってフルタイムで働いているわけだし、これ以上負担かけるのも悪い。そりゃ俺だって一人暮らし結構してたから家事だってそれなりにできるし。・・・それなりに。手伝いできることは積極的にしているつもりだ。

「だってまた同じこと起きて、ヤスくんが指輪なくしたら嫌だもん」
「ぐ、」

なんて、可愛いこと言うんだよ・・・。

「な、なくさねーヨ」
「本当に?」
「オ、オウ」
「でもさ、ヤスくん」
「なんダヨ」
「わたしのお弁当あったら午後の仕事もがんばれちゃうんじゃない?」

イヤ、それは、ウン。間違いなくそうなんだけど。

「だから、作る。異論は受け付けない」

あーもう好き。本当に好き。結婚してよかった。
抱きしめる。手をつなぐ。同じ左手の、同じ薬指に、同じリングがきらりと光る。愛しさが溢れる。

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