「明日飯食べ行く?」
「いかない」
「なー、なんで怒ってんだよー」
「ひみつ」
「いい加減機嫌なおせって」
「なおんない」
「俺が何したっていうんだよー」
「!」

(こ、こいつ・・自分がしたことも覚えてないのか・・!)

「残業あるから帰り遅くなるわー」ってメールが入ってて、最近残業続きだなあと思いながらテレビを見ていました。残業があると利央はいつも日付が変わってから帰ってくるので、利央が帰ってきたころにはわたしはすっかり熟睡。というのがもう一週間以上続いているんです。つまり利央と顔を合わせるのは朝だけで、それ以外はわたしは一人ぼっちで過ごすってことなんです。

(寂しい、寂しくて死んでしまう)

付き合ってからだいぶたつけど、新婚さんだし、一緒に住んでるんだから、もっと長い時間二人で過ごしたいのに、残業残業残業残業・・・・。だからわたしも意地をはったわけです。利央が帰ってくるまで寝ないって決めてたんです。時計の針が12を回って次の日になっても利央は帰ってこなくて、テレビも面白いのないし、DVDも見飽きたし、ゲームだって利央とやったほうが楽しいからすることがなにもない。仕方なく携帯のメールを読み返してみると、ほとんどが「今日残業で遅くなる」で、それ以外はなにもない。土日だって利央は一日中寝てるか、それか会社にいるかで、わたしのことはほっといたまま。ねぇ、わたし利央の奥さんなんだよね?

そんでもって待ちくたびれたわたしは、家にいるのも飽きたので、コンビニへアイス買いに行こうと玄関の鍵を閉めた。すぐ戻るからと携帯は置いて行った。マンションのエレベーターを降りて、外に出ようとしたら利央が居た。タクシーから降りて、まだタクシーの中にいる誰かと話をしているようだ。ちら、とタクシーの中が見えて、わたしは体がカッと厚くなるのを感じた。(女の、ひと) 話も終わって、こっちに近づいてくる利央に見つからないように、影に隠れた。

なんでなんでなんで?
なんでおんなのひとと、一緒なの?
わたしは?
わたしがいるのに、おんなのひとと一緒にいるの?
なんでおんなのひとと楽しそうに話してたの?
なんで?

利央がエレベーターに乗ったのを見て、わたしは走ってコンビニまで行った。頭がガンガンする。むかつくからハーゲンダッツを買った。

家に帰りたくなかった。
だけど実家は遠い。
わたしが帰る家はあのマンションしかなくて。

エレベーターに乗って、部屋の前について、一呼吸して、鍵を開けて、中に入る。シャワーの音がした。リビングに行ってテレビをつける。食器棚からスプーンを取ってソファに座りハーゲンダッツを食べ始める。涙がぼろぼろとこぼれてきた。Tシャツの裾で涙を拭いながら食べるハーゲンダッツ。ぶっちゃけまずい。シャワーを浴び終わったようで、利央はリビングに来た。

「起きてたの?」
「ウン」
「俺もそっち行っていい?」
「ヤダ」
「なんで」
「なんでも」
「怒ってんの?」
「ううん」
「怒ってるだろー?」
「ううん」
「可愛くないの、」
「うるさい」

そして冒頭に戻る・・・。
必死に必死に、涙をこらえてるのに、あのときの利央の楽しそうな顔と言ったら本当に泣けてくる。利央は自分がやましいことしたと思ってないのだろうか、思ってたらなんで怒ってるのかすぐわかるのかな、 やだね、こんな嫉妬深い女って。可愛くないって言われても仕方がない。

「あ、ハーゲンダッツたべてる、ずるい」
「ずるいのは、利央だよ」
「え?」


ずるいのは利央だよ。
わたしをこんなに悲しませて、寂しい思いいっぱいさせて、なのに利央は楽しそうに笑っていて。

利央がいなきゃ、ご飯なんてちっともおいしくないし、バラエティ番組だってぜんぜん笑えないし、ゲームやってもつまんないし。わたしの生活に利央は必要不可欠なのに利央はそうでもなくて、わたしいなくても大丈夫で。

「え、な、泣いてんの・・!?」
「うるさいうるさい」

ぼたぼたと涙はハーゲンダッツに溶けていって、ああもうおいしくないなあ。

「さ、さささっきの女のひと だれ」
「え?あ、先輩。てか見てたの?」
「みたくなんか なかったの に!」
「ご、ごめん」
「りお ぅの ばかばかばかばか!」
「ごめん」
「いっしょにいないと わたし さみしいのに」
「ごめん」
「りおぅは そうじゃ   ないんで しょ」
「そんなことねぇよ」
「ある もん。・・なんだよ 残業 って。多すぎ だよ」
「ごめん」
「さみしくて しにそぅ なのに」

「やだよ、りおうなんて きらい」

寂しくて 死にそう なのに

そこまで言うと、利央はどかどかとやってきて、わたしをぎゅうと 抱きしめた。

レストランだって
映画館だって
公園だって
利央がいなきゃ楽しくないんだよ、利央がいなきゃ、つまらないんだよ。

モノでつられるような女じゃないよ、モノで機嫌直すような女じゃないんだよ。

「ごめんごめんごめん。早く仕事終わらせるから」

ふわふわの利央の髪の毛が、くすぐったくて。

「だいすきだよ、オレだって寂しいよ。真帆がいないとつまんないし」
「うん」
「でもさ、真帆がいるから仕事がんばれるんだ」
「うん」
「オレ、いっぱい稼ぐし、真帆が行きたいトコにも連れてくし、真帆がしたいこともさせてあげる」
「うん」
「だから嫌い だなんて言わないで」
「・・ウ、ン」
「機嫌、なおった?」

抱きしめてくれるだけで、機嫌なおっちゃうよーなおんな なんだよ

「明日は日曜日、どこ行きたい?」
「家でいちゃいちゃしたい」
「うんうん。じゃあ今日はもう寝ようね」
「うん」

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