おばあちゃんの家に着いて一息ついて、わたしは鞄をガサゴソと探った。「あ」スマホは自分の家に置いてきたんだった。自分がどんなにスマホに依存しているかが良く分かった。それが嫌で置いてきて、鳥取まで来たって言うのに。わたしは一体何をやってるんだろう。おばあちゃんちにいることは退屈ではない。気になるものが山ほどあるし。テレビだってある。でもスマホを手にしていないことに慣れなくて、少しだけ苛立ってしまう。そんなわたしを察したのか、おばあちゃんは「海でも眺めてきたら?」とわたしに勧めて、わたしは渋々腰を上げた。

家の中は日陰になっているおかげで暑いと言えど、耐えられないわけじゃなかったが、一歩外へ出ると暑くて仕方がない。わたしは滴る汗を拳で拭いながら海へ向かった。海はおばあちゃんちから歩いてすぐのところにある。夏休みの上に海水浴シーズンだから混んでいるんだろうなぁと思っていたが、夕方に差し掛かっているせいか意外と人はまばらだった。砂浜へ降りて、波打ち際を歩く。時々足に波が引っ掛かり、わたしは慌てて波から離れるが、結局足は塩水で濡れてしまった。ビーチサンダルで来て良かった。延々と波打ち際を歩いていると、いつの間にか夕日が半分だけ、ぽっかり海に浮かんでいた。「うわあ」久しぶりに海に沈む夕日を見る。あまりの眩しさに目を細めた。半分だった夕日がどんどん欠けていく。すっかり夕日が沈むまで、時間はかからなかった。あっけなく夕日は沈んでしまった。「あーあ」もっと見ていたかったのに。わたしはくるりと海に背を向けて歩き出す。


「あ、れ?」


前から声が聞こえて、わたしは顔をあげた。砂が足の指の間に入り込んで痛い。


「もしかして、真帆か?」


わたしの前に立っていた、背の高い男の人は目を真ん丸にして、わたしの下の名前を口にした。わたしのことを見ているし、それにわたしの名前を知っていたから、きっとわたしのことを知っている人なんだろうけど・・・。夕日を見つめていたときのように目を細めて、頭の中でぐるぐると人探しをする。


「もしかして、マコちゃん?」


思いつく名前を言うと、背の高い男の人はパァと顔色を明るくさせて、わたしに駆け寄ってきた。


「久しぶりだなぁ!」
「うん、お久しぶり」
「真帆全然変わってないね。すぐ分かったよ」
「マコちゃん顔はあんまり変わってないけど、すごく背が高くなったね」
「まぁ小学校の時から背が高かったしな」
「元気そうで何よりだよ」
「うん。そっちこそ」
「小学生ぶりくらいかな?」
「そうだよ。中学生になってからこっち来なくなっただろ?それまで毎年のように来てたのに」
「そうだね。来れて良かった」


久しぶりの再会に話題は尽きることがなく、会わなかった間あった話。部活の事。おばあちゃんのこと。喋りきるには時間が足りなかった。気がつけばあたりはすっかり真っ暗になっている。マコちゃんは携帯で時間を確認すると「そろそろ夕ご飯の時間だね、帰ろうか」と言った。続けて「送って行くよ」と。


「いやいや悪いよ!大丈夫!」
「俺が送りたいの。まだ喋りたいこといっぱいあるし」
「・・・ありがと」
「それに久しぶりにおばあちゃんにも会いたいしな」
「あんまり会ってないの?おばあちゃんに」
「真帆よりはずっと会ってるよ。先週も会ったし」
「それ久しぶりって言わないと思うよ」


わたしとマコちゃんは四年ぶりに再会したけど、マコちゃんがわたしのことを覚えていてくれるとは思わなかった。わたしはしっかりとマコちゃんのこと覚えていたけど、小学生の時の姿のまま覚えていたから、少し戸惑ったよ。


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