家に帰ると、暗い部屋から喘ぎ声が聞こえてきた。これはもしかして浮気相手とアーンな最中なのかなぁ。逃げるべきか立ち向かうべきか、悩んだ末にドアノブに手を掛け、思いっきり引いて大きくドアをあけた。


テレビが煌々と光っている。
目玉が落ちてきそうなくらい、見開いてる花宮。
部屋に充満する独特なにおい。
そして大量の、ティッシュ。


「はな、みや」


そりゃーさ、今日まで一週間出張行ってたし、帰るのは明日だよと言っておきながらサプライズで今日にしちゃったっていうのもあるかもしれない。オナニーすんなとは言わない。AV見るなとも言わない。だけども、できれば見たくなかったなぁ。花宮が一人でしてるとこ。


「真帆…」
「た、ただいま」


振り返ってわたしを見上げたまま、花宮は動こうとしない。両手に荷物抱えたままはつらいからとりあえずお土産とか下ろして、生物もあるからキッチンにも行かなくちゃだ。ここは見て見ぬ振りにしよう。花宮の脇を通り過ぎようと足早にキッチンへ向かうと、花宮はベトベトの手でわたしの足首をつかんで、懇願するような顔をして何かつぶやいた。ストッキング越しにもわかる、そのベトベトした感触が背筋をゾクッとさせて、冷蔵庫にしまおうと思っていた荷物をその場に落としてしまった。


「なに」


見て見ぬ振りをしようと決めたのに。そんなことされたら知らんぷりなんてできないじゃないか。


「助けてくれ」
「は、」


ビックリしたからしぼんだだろうなと思っていた花宮のそれは元気をなくすことなく今でも勃っていて、正直そんな気分じゃないわたしはナニをしたいとは思えない。花宮は左手でそれをごしごしと擦ると、目をとろんとさせて「お願いだから」と言った。


「ソレ、しまってくれない?」
「しまえるわけねェだろ…」
「でもわたし、今そんな気分じゃない」
「見てるだけで、いいから」
「…ほんと、花宮がなに考えてるかわからないよ」


わたしは長いため息をついて、花宮と向かい合わせに座った。花宮はわたしに何かしろと言うわけではなく、ひたすら自分が擦っているところをわたしに見せつせていた。花宮は時折わたしの目を捉えては唇を噛み締めて、肩を震わせる。


「花宮、きもちい?」
「……」
「なんか言ってよ」
「黙ってろ」
「Mの癖に。なにがどう気持ちいいのか言ってみなよ」


わたしが意地悪なことを言うと、花宮のソレは大きさを増した。わたしが罵るように「ドMだ」と言っても毎回花宮は否定をするが、どう考えてもM以外のなにものでもない。


「言わなきゃわたしもうキッチン行くけど」
「っ、行くな」
「じゃあ早くイケば?」


テレビが煌々と光ってる。
AV女優が切なげに眉間に皺を寄せて喘いでる。
花宮はわたしの名前を呼んで、小さく いく と言った。


「あーあ、スーツ汚れちゃった」


そう言うと花宮は少しだけ泣きそうな顔をして、「新しいやつ買ってやるよ」と言って、「だから」と続けた。


「仕方ないなぁ」


ブラウスのボタンをひとつずつゆっくり外すと、花宮はベトベトな手でパンストを引きちぎった。AVはいつの間にか終わっていて、最初のスタート画面に戻っている。

いつも余裕ある風を装っている花宮の化けの皮が剥がれていく。だからわたしは花宮が好きなんだ。

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