別のテーブルが盛り上がっていてとてもうるさい。にゃーちゃんのオフ会で、にゃーちゃんについて語り合っている僕らのところに、全く関係のない喋り声が割り込んでくる。にゃーちゃんについて語り合いたいのに、その笑い声、喋り声にかき消されて会話が成り立たない。盛り上がってるテーブルに反比例するように、僕のいるテーブルはどんどん盛り下がってゆく。僕の意思に反して。みんなのイライラゲージがたまっていくことをひしひしと感じた。だがこれはもうどうしようもない。僕にできることはなに一つない。にゃーちゃんの集まりでしたかった、あれやこれやを投げ捨てる。会話はもうどこかで途切れた。何か新しい話題を振ったとして、反応があってもその話は長く続くようには思えない。


俺は一体なにしにここへ。


「ちょっと僕トイレに行ってきますね」


ついに耐えられなくなり、席を立つ。トイレに行ったところで、結局席に戻らないといけない。途中で帰っちゃったら、これからにゃーちゃんのライブで会う度にぎくしゃくしそうだ。はぁ、と長いため息をついてトイレへ行く。
がやがやとうるさいチェーン居酒屋。そうか、今は忘年会シーズンか。季節の移ろいは寒さや暑さでわかる。が、ニートであるが故に毎日は休日だから、年末年始の冬休みとかそんなものには縁遠い。来年こそは、働かなくちゃなぁって、毎年思ってる。


「わっ、」
「あ、」


曲がり角で誰かにぶつかってしまった。ぶつかったことによる痛みなんてなくて、むしろほにゃんと、柔らかく感じた。「すみません、わたしぼーっとしてて」慌てて顔を上げると目の前には、同じ歳くらいの女の子がいて、慌ててまた顔を下げる。


「いやいや!僕の方こそ!考え事してて全然気がつかなかったし、本当、すみま「あれ?チョロ松くん?」


僕の言葉を遮るように、彼女は僕の名前を呼んで、つい、ポカンとしてしまう。知り合いか?と思い不躾ながらまじまじと顔を見る。アルコールのおかげか頬が赤い彼女の顔は、どこか見覚えがあるような…。


「チョロ松くんだよね?わたし!真帆!高3の時に一緒に学級委員した」
「あーーー!!!」


その言葉で高校三年間の記憶が一気に蘇る。なぜか三年間ずっと学級委員をしていて、三年目が一番学級委員することが楽しかった。それは内田さんと一緒だったから。内田さんは協力的で、やさしくて、実はちょっとだけ憧れていた。高校卒業してから接点がなくなっていたけれど、まさかまだ地元にいたなんて。


「チョロ松くん全然変わってないね!」
「内田さんは、その、」


綺麗になった、なんて口が裂けても言えない。本心だけど。


「うん?」
「ああああの、えっと、だ、誰と飲みに来てるの?」
「高校の時の同級生だよ。チョロ松くんも知ってる人いるかも!よかったらちょっと顔出す?」
「いや、悪いよ…」
「あ、そっか。チョロ松くんも誰かと来てるんだもんね」
「そういう意味じゃなくて」


内田さん困ったように首をかしげた。か、かわいい…。


「きっと、僕のことなんて覚えてないだろうし、」
「そんなことないと思うけど」
「それに僕もそんなに高校の同級生、覚えてないと思うし」
「うーん…久しぶりにチョロ松くんと会ったからさ、ここでバイバイするのってなんか、さみしいなあって」


内田さんははにかんで、ぽりぽりと頬を掻いた。ねぇ兄弟、これって、これって、もしかしてチャンスなの?チャンスなら、僕は、俺は、


「じゃ、じゃあ、飲み直さない?」


それをモノにしても、いいんですか。


「その、、二人で」
「!」
「だ、だめかな…?」
「もちろんいいよ!」


モノにしても、いいですか。

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