女の子は好きだ。お洒落も好きだし、なによりも誰かと一緒にいることが好きだ。末っ子だからなのか、甘やかされて生きて、寂しがり屋なところもある。スケジュールアプリが埋まってないと不安になったりもするけど、なんだか最近

「ちょっと疲れてきたな」

居間には誰もいない。おそ松兄さんはパチンコ。カラ松兄さんはどっか行ったし、チョロ松兄さんはにゃーちゃんのライブ。一松兄さんは猫に餌あげに行ったし、十四松兄さんはバッティングセンター。こんな風に家でのんびりするのも悪くないなあと思うけど、溜まっていくLINE。誰からきたかだけ確認してそのまま放置。返す気にもなれない。

「あーーヒマだなぁ」

一人になりたいくせに、暇だと落ち着かない。
空がすっかり暗くなった。冬は夜が長い。ビュウ、と強い風が吹いて、窓がガタガタと鳴った。ちゃぶ台につっぷして、目をギュッと瞑った。

ピロリン とまたスマホが鳴った。誰からだろう、確認するだけ、と手を伸ばす。画面をつけるとそこには「真帆」と、学生の頃から付き合いのある女の子の名前が表示されていた。

「真帆か」

僕が頑張らなくてもいい、唯一の女の子。真帆の前だとお洒落しなくても、ドラマの話しなくても、流行りの歌の話しなくてもいいと思ってる。女の子は女の子なんだけど、長く一緒にいても恋愛に発展もしないし、するようにも見えないから楽。僕から誘うこともあれば、真帆から誘われることもある。誘って既読スルーされることもあれば、誘われて既読スルーすることもある。そういうのが許される関係なんだ。

「えー、なになに?」

馬刺し食べたいから居酒屋行こう

「馬刺しって…シブい」

ちゃぶ台から身を起こして、マフラーを手に取る。部屋着からわざわざ着替えるのも面倒だからこのままでいいや。お財布にもそんなにお金がないけどいいや。
家を出て真帆に返事をする。待ち合わせ場所に有名な所を指定され、そこへ向かった。最近会ってないから、今どんな髪型してるかサッパリわからない。僕の外見は全然変わってないから、僕が見つけられなくても、真帆は僕を見つけてくれるだろう。

と、思ってた僕が馬鹿だった。

待ち合わせの場所に着くと、そこにはこれから飲みに行くであろう待ち合わせの人たちでごったがえしていた。アドレス帳から真帆の名前を探して、電話をかける。こんなにたくさん人いたら見つかる気がしない。スマホを耳にぴったりくっつける。コールを何度鳴らしても、真帆が出てくれることはない。人を避けながら真帆の姿を探した。

「これから人くるんで」

人で溢れていて騒がしいのに、その声が妙に耳に入って、僕は振り返った。そこには二人の男に囲まれてる真帆の姿があって、僕は慌てて電話を切った。男の手が真帆の腕を掴んでいて、真帆は振り解こうとしている。

「だから、わたしには予定があるんだって、君たちに付き合ってる暇はないの!」

…気がつかなかったけど、真帆ってちゃんと女の子で、可愛いんだ。キチンとした格好の真帆を見て、改めて今日の自分の格好を思い出す。

思い出してボケっとしてる場合じゃない、早く真帆を助けないと。

「その子、僕と予定があるんだけど」

真帆と男たちの間に立つように入る。僕は非力だから、二対一の不利な戦いなんてできない。だから隙を見て真帆の手を引いて走り出した。

「何男の人に声かけられてるの」
「わかんないよ、トド松待ってただけなのに」
「僕がもっと早く着いてたらよかったのに。ごめんね」
「いや、全然?」

しばらく走って、男たちが見えなくなるところまで行く。走り疲れて肩で息をしてると、後ろにいる真帆が「初めてトド松と手繋いだ!」と笑った。「ごごごめん!」と慌てて手を離すと、真帆は全く気にする様子なく、「別にいいよ」と言う。

「ちゃんとトド松も男の人なんだね」
「なにそれ」
「ううん。ほら、馬刺し食べいこ。今日仕事でミスっちゃってさ。あとで愚痴聞いてよ」
「…うん」

真帆だってちゃんと女の子なんじゃん。

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