いつもより早く目が覚めた。弟たちはまだ眠っている。俺がこんなに早く目が覚めるとは思われていなかったようで、朝ごはんの用意はなかった。この間パチンコで勝ったお金で朝からうまいもんでも食べに行こうかと家を出た。

何か楽しいことないかな、なんて、24時間やってる居酒屋を目指し歩く。その途中、橋の真ん中、柵に寄りかかり川に向かって煙を吐く、見慣れない女の人がいた。

「おねーさん、何してんの?」

こんなとこカラ松に聞かれたら、またナンパかと言われそうだ。

「一服」

そらそうだ。
俺みたいなニートならわかるけど、普通の大人なら今、出勤する時間帯だ。それなのに女の人はのんびりと煙草を吸っている。

「仕事は?」
「終わったよ、朝」
「夜勤とか?」
「そんなところ」

へぇ、と相槌を打ちながら女の人の隣に立つ。女の人はけだるそうに髪の毛をかきあげて、「ねむ…」と小さく呟いた。

「あなたは?」
「ん?俺ェ?」
「うん」
「朝ごはん探しながら、なんか面白いことないかなーって」
「ふぅん」
「お姉さん、煙草一本ちょうだい」
「いいよ」

女の人は小さな鞄から煙草のボックスを取り出すと、俺に向かってポンと投げた。そのパッケージは日本で見たことのないようなグロテスクなもので、一気に吸う気をなくす。ちゃんとメビウスって書いてあるし、煙草は煙草だと思うけど。

「珍しいパケだね」
「タイの煙草だって。お客さんがくれたの」
「お客?」
「うん。わたしガールズバーで働いてるから」
「へー!俺てっきり風俗嬢かと思ってた!」
「今度遊びに来てよ」
「パチンコか競馬で勝ったらね」

だって俺ニートだし。

「約束ね。さて、そろそろ帰って寝ようかな」

吸っていた煙草を携帯灰皿にねじ込むと、 女の人は大きく伸びをした。そして俺の隣から離れて行こうとする女の人に向かって「ちょっと待って」と呼び止める。煙草はまだ、俺の手の中だ。

「ん?何?」
「名前、教えてくれなきゃ遊び行きようがなくない?」
「それもそうだね」
「俺おそ松」
「変な名前」
「よく言われる」
「真帆」
「真帆かぁ、よし、覚えた」
「煙草の中、お店のライター入ってるから」
「うん」
「それじゃあね」

今度こそお別れか、俺がパチンコか競馬で勝つまでお預けか。

「ねー、俺も一緒に寝ていい?」
「?」
「誰かと眠ると安心しない?」

自分の隣の温かさがあると、よく眠れるのは経験済みだ。

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