「雨はいやだなぁ」


隣に座っている真波くんがぽつりと言った。あまりにも小さな声だったから、きっとわたし以外、誰も気がつかなかっただろう。ざわざわと煩い教室。自習で配られたプリントを真面目にこなしている人はほとんどいない。わたしは真面目だからこうやってコツコツと勉強している。真波くんは他のクラスメイトと同じように友達と喋るわけでもなく、わたしと同じようにプリントをするわけではなく、ただ雨が降る外を眺めていた。


「雨、嫌いなの?」


喋りかけられたわけではないと分かっていたけど、真波くんの独り言に、声をかけてしまった。そのことにたいして別段驚いた様子も見せず、真波くんは「あまり好きじゃないかな」とわたしの方を見て言った。


「自転車部だからさ、すごい雨だと室内練になっちゃうんだよね」
「室内練?」
「うん。筋トレとか、持久走とか、三本ローラーとか」
「そっか。それは大変ちょっといやかも」
「つまらないんだよね」


眉毛を下げて、弱々しく笑う真波くんに、わたしは同情に似た感情を持ってしまう。何とかして晴れてはくれないものか。窓の外には重そうな雲が延々と広がっていて、どうにもこうにも晴れそうにない。



「じゃあ、てるてるぼうず作るのはどうかな」


わたしが言うと真波くんは「てるてるぼうず?」と首をかしげた。


「つくったことない?」
「ないかも」


あいにく布とソーイングセットを持ち合わせていなかったわたしは、いらなくなったプリントとルーズリーフを使っててるてるぼうずを作って見せると、真波くんは目をまんまるにして「すごーい」と言った。


「顔書く?」
「書く!」
「どうぞ」


てるてるぼうずを手渡すと真波くんは楽しそうにペンで顔を書いた。そしてそれをちょこんと机に置くと「ここに飾ってもいい?」とわたしに聞いてきた。「もちろん」


「なんだか晴れそうな気がしてきた」
「そうかなぁ」
「そうだよ。だって内田さんとオレがつくったてるてるぼうずだもん、効かないはずないよ」


ああ、どうしてそんな簡単に、そう言うこと言えるのかな。

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