家に帰ってただいまと言うといつもある「おかえり」の声が聞こえなくて、自分の血がサッと冷たくなったように感じた。急ぎ足で女の姿を探す。リビングにも女の部屋にも居ない、残すところはキッチンと風呂場だけだ。まず先にキッチンへ向かう。そこでやっと女の後ろ姿を見つけて、ほっと胸をなでおろした。


「ただいま」


もう一度言うと女は涙目で振り返って言った。「リ、リヴァイさん、おかえりなさい」その言葉すべてに濁点がつきそうな声だった。こいつが泣くことはよくあることだけど、やっぱり泣いている姿は見たくないし、そして泣いているなら泣きやませたくなる。急いでそばに寄り「どうした?指でも切ったのか?」と聞く。料理をしていて故郷のことを思い出したのかもしれない、という考えもあったが、それを聞くのは最善じゃないと感じて思いとどまった。そうすると女は目から大粒の涙をひとつ落とし、涙声で「た、たまねぎ」と言った。女の向こうにある作業台の上にはみじん切りになった玉ねぎと、まだみじん切りにし終わっていない玉ねぎが置いてあった。


「もしかして目に染みたのか?」
「染みました。涙が止まりません」
「貸せ」


女の手から包丁を奪い取ると残る玉ねぎをすべてみじん切りにするべくまな板に向かった。巨人の肉を削ぐことを得意とする俺の包丁さばきはそれはそれは見事なものだと自負している。玉ねぎが目に染みる前にすべての玉ねぎをみじん切りにすると、女はぱちぱちと拍手をして、「すごい!早い!細かい!」と賛美の声を俺に浴びせた。


「今日は何を作る予定だったんだ?」
「トマトソース作って、パスタを」
「パスタか」
「まだ時間かかるから、先お風呂入っててください」
「わかった」


俺がキッチンから出て行くと、背中から「リヴァイさん」と呼ぶ声が聞こえて立ち止まった。振り返ると女が「ありがとう」と言って笑う。お礼を言われるほどのことはしていない。照れ臭くなり、バレないように前を向くと「リヴァイさんはつれないなぁ」と独り言が聞こえた。


「うるせぇ。喋ってないで手を動かせ」
「はーい」


あぁもう、かっこつかねぇ。

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