目覚めが最悪だった。



夜中、女が俺の部屋を訪ねて来て「あの、一緒に寝てもいいですか」と問うた。俺が買ってやったふかふかの枕に力を入れて抱きしめている。綿がはみ出てしまうんじゃないかと思うくらいの、力の強さで。俺は読んでいた本を閉じて大げさに溜息を吐いた。女がこの家に来てからと言うもの、本を読み終わるまでに時間がかかるようになってしまったような気がする。俺の大げさな溜息が女を不安にさせたのか、女の目には次第に涙が溜まって行く。ああ、またやってしまった。


「泣くんじゃねぇ」
「まだ泣いてません」
「まだってことはこれから泣くんだろ・・・」
「そんなことないです」
「嘘吐くな」


ドアの近くに行き、女を部屋に招き入れる。こいつは馬鹿なんじゃないのか。好きでもない男と密室の空間に自ら行くか?普通。行かないだろ。馬鹿だろ。招き入れる俺も、どうかしているかもしれない。女は不安そうな顔から一変、ほっとしたようで、手に持っていたふかふかの枕を抱きしめる力を弱めた。カチャリとドアを閉める。もちろん鍵をかけたりなんかしない。軽い足取りで俺のベッドまで行くと女はふとんを控えめに開いて枕をぽすんとセットした。そして頭まですっぽり布団にもぐりこむ。


イラァ
無防備すぎるんじゃねぇのそれ。


「リヴァイさん」
「なんだ」
「あとどれくらいで本読み終わりますか?」
「・・・まだかかる」
「そうですか」
「どうかしたか」
「ううん」
「・・・怖い夢でも見たのか?」
「なんで分かったんですか?」
「勘だ」


強いて言うなら最近俺の部屋を訪ねてくる回数が減っていたから、だ。こんな夜中まで起きていることはないだろう。夜中に目が覚めてしまい、怖くて眠れなくなり、俺の部屋を訪ねてきた。そう考えるのが妥当だ。ベッドの縁に腰をかけて少し布団をめくると女は慌てて布団をかぶろうとする。本を読みなおそうと思っていたけど女の態度が苛々するのでそれはやめた。ランプを消してベッドへもぐりこむ。光が消えて顔が見えなくなったのか、女は安堵したようで顔を布団から出したようだった。「あー息苦しかった」と言った。


「最初から顔出しとけばいいだろ」
「泣きそうなのは見られたくないじゃないですか」
「いい加減一人で眠れるようになれ」
「今までずっと一人で寝ていたから」


だから 誰かと一緒に眠ると こんなに安心できるって知らなかったから
知っちゃったら 一人で眠れなくなっちゃいました





「早く寝ろ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」





目が覚めてから気がつく。女がこんな風に俺の部屋に入ってきて一緒のベッドで眠れるってことはつまり、女は俺に手を出されるなんて思っていなくて、俺を信用しているからできる行動で、恋愛対象外と言うことで、信用を裏切ることはしたくないわけで、



「あ――――、」


クソが。
心の中で呟いて、起き上がる。隣にはまだすやすやと眠ったままの美緒がいた。この純真無垢な寝顔を、一人占めしているこの時間が好きだけど、もし、俺が、美緒に手を出してしまったら、この寝顔を見ることはもう二度とできなくなってしまうんじゃないだろうか。

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