女を家に連れて来て早一週間。まだ女は俺に慣れていない様子で、


「おい」


俺が声をかけると必要以上にビクリと肩を震わせて女は時間をかけて振り返る。目つきの悪さは自覚しているが、そこまで怖がることはないと思う。いきなり変な男達に捕まえられて平気でいる方が可笑しいか。傷物になったら値段を釣り上げることができないから大きな怪我はさせられなかったはずだ。目には見えないけど、心には大きな傷を負っていることだろう。知らない土地に連れて来られ、競りにかけられ、見ず知らずの赤の他人である俺のもとへ来ることになって、怖い以外の何があるって言うんだ。

わかっている。
わかった上で、俺はこうして女と生活を始めることにした。
後先考えずに競り落としていたけど、後悔はしていない。後悔はしていないし、そして女をどこかへほっぽり出そうとも考えていない。保護だ、俺は女を保護したんだ。そう自分に言い聞かせて、女の保護者になったつもりでいる。そうじゃないと俺が悪いことをしているみたいで気分が悪い。地下街に踏み入った時点で“悪いこと”なのかもしれないが。


「な、なんですか?」


女の態度が気に食わなくて、思わず眉間に皺を寄せてしまった。あーこれがダメなんだよ。これが怖がらせる原因でもあるんだって気づいたばかりじゃないか。眉間に寄った皺を伸ばすように人差指で眉間をもみほぐす。呼んだくせに返事をしない俺のことを不思議に思ったのか、女は「あの・・・?」ともう一度言った。


「・・・名前はなんて言うんだ」
「あ、美緒、と言います」
「ふうん」
「あの、わたしはなんてお呼びすればいいでしょうか」
「リヴァイでいい」
「リヴァイ・・・さん」
「なんだ」
「練習しただけ、です」
「名前を呼ぶのに練習するのか」
「いちおう」
「そうか」
「あの、リヴァイさん」
「なんだ」
「・・・なんでもないです」
「また呼んだだけか」
「そういうわけじゃないんですけど」
「はっきりしないな」
「ごめんなさい」
「風呂でも入ってきたらどうだ」
「えっ、でもリヴァイさん先に入った方が」
「晩飯作って待ってる」
「待っていて くれるんですか」
「ああ」
「リヴァイさんって、顔怖いけど優しいですね」
「な ん か 言 っ た か?」
「なんでもありません」
「ほら早く行け」
「ありがとうございます」


風呂へ向かう女の後ろ姿を見送って、なんで俺は今日まで名前を聞かなかったんだろうと首をかしげた。名前を聞いたからなのか、少しずつ女が俺に慣れてきたように思えて、安心する。一緒に生活していく上でギクシャクしているなんて生きにくいったらないからな。シャツの袖を巻くってキッチンへ立つ。今度は好きな食べ物と嫌いな食べ物について聞いてみることにしよう。

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