髪の色が見えないようにフードを目深にかぶって、わたしは初めてこの家から出た。


右と左をよく見て、誰もいないことを確認してからドアをあける。リヴァイさんはわたしに出て行くなとは言ったことがない。いつでも出れるようになっているし、鍵も家に置いてある。わたしは強制されてここにいるわけではないのだ。


「わあ」


白く降り積もる雪に足を取られる。外はこんなに寒かったんだ。いつも家の中にこもっているから気がつかなかった。雪も、想像しているよりずっと積もっている。雪を蹴るようにざぶざぶと進んでいく。すぐに息が切れてしまって、自分の運動不足を痛感した。ずっとあの家にこもっていたから、運動なんて丸っきりしていない。そりゃそうだ。体は健康そのものだけど、体力がない。 雪の上にばふんとダイブする。さらさらな雪がわたしの体を受け止めて、冷やしていく。ひんやりして気持ちが良かった。


「・・・リヴァイさん」


リヴァイさんは今ここにはいない。
調査兵団の本部にいるはず。


「わたし、」


リヴァイさんのそばにいてもいいのですか。




「そんなとこで寝てると風邪ひくぞ」


背後から声が聞こえて、わたしは上体を起こした。わたしの耳に、一番残っているリヴァイさんの声が聞こえた気がして。でもそんなはずない。リヴァイさんは今日、帰って来ないって言っていた。フードをかぶり直して、視線だけ声の聞こえた方に向ける。


「なんで」


だって、帰って来ないって


「リヴァイさん」


わたしの足跡を踏んで、リヴァイさんはやってくる。雪がちらついているから、もしかしたらわたしが見てるのは幻なのかもしれない。寒さで頭がやられてしまったのかもしれない。

でも、わたしの頭に触れたリヴァイさんの手は、わたしがよく知る大きさで、


「早く立て」
「は はい」


本物 だった。

リヴァイさんはあまり背が高くないけど、手は大きくて、わたしの手なんて簡単に包めちゃうんだ。リヴァイさんの髪の毛に、雪が少しずつ降り積もる。冷え切ったわたしの指先と、さっきまで手袋に包まれていたのか、温かいリヴァイさんの手。わたしはいつもこんな風に、リヴァイさんに導かれている。

辺りはすっかり真っ白だ。
世界に二人だけのよう。

でもわたしの世界はずっと前から、リヴァイさんと二人だけなんだ。


「今日は泊りじゃなかったんですか」
「雪がすごいから帰ってきた」


それって理由になるのかな。帰ってくるの、大変だったんじゃないかな。


「家出したわけじゃないですよ、その、雪が、奇麗だったから」
「わかってる」
「ちゃ、ちゃんと帰るつもりだったし、その」
「わかってる」


ああ、そうなのか。
わたしが帰る家はあのリヴァイさんの家で、わたしが帰る場所はリヴァイさんのいる場所なんだ。


「リヴァイさん」
「なんだ」


いつのまにか、そうなってたんだ。


「あ ありがとう」


何かがおなかの底から湧きあがってきて、わたしは歩きながら涙をぼろぼろと流した。寒さで鼻が冷たくて、涙もすぐに冷えて行く。ほっぺが痛い。でもそれ以上に、繋がれたわたしの左手が、もっともっと痛かった。嬉しかった。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -