女が突然飯を食べなくなった。
俺の目の前で食べることが嫌なのかと思い、テーブルの上に飯を放置して調査兵団本部へ行き、帰ってきてもその飯はは手をつけられることなく、俺が家を出る前と変わらずにテーブルの上に寂しそうに置いてあった。断食でもしてんのか。悟りでも開きてぇのか。自分の作った飯を捨てることは嫌だと思い、温め直して自分の胃袋に入れる。女はどこにいるのか、すぐに見当がつく。どうせ自分の部屋に引きこもってんだ。最近俺の部屋に来て眠れないとか言わなくなったから、やっとこの生活に慣れてきたんだなと思ったらこれだ。全然慣れてねぇじゃねぇか。クソが。食器をシンクに置いて、女の部屋に行く。物置だったこの部屋を住めるようにしたために鍵なんてものはついていない。遠慮なしにドアを開ける。すぐに見つけることは出来なかった。一瞬、ついにこの家から脱走したのかと思ったが、そうじゃなかった。ベッドが不自然に膨れている。つかつかとベッドへ歩いて行くと、俺の足音に気がついたのかビクリと毛布が揺れた。ばさっと勢いよく毛布を剥ぐと、猫みたいに丸まった女がいるではないか。


「おいテメェ・・・」
「・・・」


最初はなんで飯を食わないのか問い詰めようと思ったが、少し痩せた女の顔を目にしたら、そんな気も失せてしまう。そう言えばちゃんと顔を合わせるのは久しぶりだ。立った数日だとは思うが、こうも変わってしまうものなのか。女はムクリと体を起こすと目をあわさずに俺の名前を呼んだ。「リヴァイさん」声を聞くのだってなんだか懐かしい。ベッドの縁に腰をおろす。いつまでたっても女は俺を見ることはない。


「痩せたな」
「・・・はい」
「腹は空いてねぇのか」
「・・・」
「嫌いな物でも入っていたのか」
「・・・」
「死にたいのか?」
「死にたく ないです」
「じゃあ食え」


俺がそう言うと、女は何も言わずに、俺の顔を見てきた。悲しそうな顔をされても、俺は優しい言葉なんて思いつかないからかけない。その場しのぎの言葉なんて言ったって無駄だろう。


「わたしは」


悲しそうな表情そのままに、女は口を開いた。


「タダ飯喰らいで」
「そうだな」
「養ってもらってるだけで」
「そうだな」
「お金も払わずに、素敵なところに住まわせてもらって、服も、ご飯だって」
「そうだな」
「いい暮らしを、させてもらっているのに」
「いい暮らしか?」
「いい暮らしですよ。ご飯も作ってもらってて、服だっていつも新しいので。なのにわたし、リヴァイさんになにもしてあげられてない。もらってるばっかりで、こんなの、良くない」
「なんでだ」
「だってわたしは、リヴァイさんに養われていい肩書も、名分も、何も持ってない」


なんの義理があって、女を俺は養っているのだろうか。俺が女を買ったからか?買ったからには見返りを求めるべきなのか?違うだろ。そうじゃねぇだろ。


「じゃあ明日からお前は家事全部やれ」
「ぜ、ぜんぶ、ですか」
「俺はもう家の事はノータッチでいく」
「・・・はい」
「それなら、対等だろ」
「はい」


対等と言う言葉に安心したのか、女はふにゃりと笑う。されてばっかりじゃ、嫌だったんだな。気がつかなかった。ふにゃりと笑った女はお腹をぐぅぅぅと大きく鳴らし、少し照れて頭をポリポリと掻いた。


「ご飯、なんか作ってもいいですか?」
「俺の分も作るんだろうな?」


さっき自分で飯食ったけど、もう一食分位入るだろ、俺の胃袋。

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