昼寝から目が覚めて、ソファに横たわったまま天井をぼーっと眺める。コーヒーの香りが部屋を満たしていた。


女は俺の家から出ることはない。出させないようにしているし、自分には特殊な血が流れていて、人身売買の標的になると言うことは経験しているから、自ら出歩こうともしない。軽く軟禁状態か、気がつくと自分が変質者のように思えてきて、その考えを忘れ去るべく頭を振った。


「どうかしたんですか?」
「いや」


女は俺が頭を振ったことに気がついたのか、手に持っていたカップをテーブルに置くと、少し不安そうな顔をしながら聞いてきた。自分が変質者のように思えてきたなんて、どの口が言えることだろう。言えるわけがない。むくりとソファから起き上がると頭がズキンと痛んだ。美緒に聞かなければいけないことが、ある。ずっと聞かないとと思っていて、目をそむけていたこと。


「お前は、俺のことをどう思っているんだ?」


どう思って、どうして、ここに住んだままなんだ?
昼間は俺は家を開けていることが多いし、その隙に逃げ出すことだってできる。逃げ出したと方が危険だと言うことは気がついているかもしれないが、赤の他人である俺と一緒に生活するよりは、もともと住んでいたところにいる方が、もしかしたら幸せかもしれない。身を隠しながら故郷に帰ることだってできるかもしれない。だけど女はそれをすることはなく、俺の帰りを待つ日々が続いている。いったい美緒は何を考えているんだ。


「・・・どうなんでしょうね」


眉間に皺を寄せて女はポツリと言う。その返事は曖昧で俺の中に消化されないまま積もる。


「居心地は、すごくいいです」
「居心地?」
「誰かの帰りを待っていることって、意外と楽しいものなんですね」


どうやら俺は変質者には思われていないらしい。それだけで十分だけど、それ以上のものを今もらった気がした。


「俺のことは嫌いじゃないんだな」
「まさか!嫌いになるはずがないですよ」


安心して、ふうと息をつく。軟禁状態には変わりはないけど、女はこの生活を満喫してはいるようだったから、まだしばらく、このまま生活してもいいだろう。俺はまた死ねなくなった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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