見知らぬ番号から電話がかかって来た花の金曜日のアフター5。いつもなら知らない番号からの電話には出ないけど、なんとなく通話ボタンを押してしまった。そしてすぐ後悔する。電話の向こう側に誰がいるかわからないのに、なんで通話ボタンを押してしまったんだろう。これから繁華街へ向かうであろう人たちの波に逆らいながら、携帯を耳にあてた。


「あ、オネーサン」


誰かなんて、すぐ分かってしまった。相手が誰だかはわかったけれど、どうして彼がわたしの携帯の電話番号を知っているかはわからなかった。わたしは気づかれないように溜息をついた後、「及川徹さんですか」と答えた。わたしのことをオネーサンと呼ぶのは彼しかいないし、それに声ですぐに分かってしまった。


「あたり〜!良く分かったね」
「なんでわたしの番号知ってるの?」
「そんなことよりこれから暇?」


そんなことよりですまされる問題なのだろうか。わたしは君の電話番号知らなかったよ。歩くスピードそのままにわたしは帰宅路へ急ぐ。予定なんてものはないから、早く家に帰りたい。それで土日ゆっくり休んで、月曜日から始まる仕事に備えたい。すれ違った奇麗な人からふわりと香水のいい香りがして思わず振り返った。あの人はデートへ行くのだろうか。


「・・・暇じゃない」
「今間があったよね、つまり暇なんだね!」
「暇じゃないってば」
「今どこ?あ、もう駅にいるんだ」
「なんでわたしが駅にいるって知ってるの?」
「だってアナウンス聞こえたから」
「地獄耳・・・」
「今から行くからそこから動かないでね!」


ぶちっと電話が切れ、わたしは耳から携帯をはずし、まじまじと見た。なんで徹はわたしの携帯の番号を知っていたんだろう。不思議。歩きながら電話をしていたから、わたしはすでに改札手前まで来ていた。まさかわたしの居場所が徹に知られるとは思ってもみなかったので、本当に来るのどうか試す気持ちでわたしは待つことにした。改札から少し離れたところで携帯をいじりながら、立っていた。今のわたしはさながら彼氏を待つ彼女で、居心地が悪い。香水なんて持っていないわたしはいい香りをさせることができない。どうしたらいいんだろう。わたしの前を通り過ぎていく人たちは一体どこへ向かって歩いているのだろう。花の金曜日。まさかわたしに予定(仮)が入るなんて。電話を切ってから約10分後、わたしの前方にちらつく影があって、正面を向いた。

徹がわたしの姿を探しているようだった。きょろきょろとあたりを見回しながら、わたしに近づいてくる。まだわたしのことを見つけていないのかな、それとも見つけたのに探しているふりをしているのだろうか。世の中の乙女たちはどうやってこの待ち時間を過ごしているんだ。謎すぎる。


「あ、オネーサン見っけ!」


ぱちっと目があった瞬間、まだ5メートルは有に離れているのに、徹は大きな声でわたしを呼んだ。いつもと同じようにめぐっていた血液が一気に循環が良くなり、わたしの体は少しずつ熱を帯びて行く。なにこれ、変。


「やっぱり暇だったジャン」
「暇じゃないです」


ひょろりと背の高い徹がわたしの隣に並ぶ。暇じゃないなんてウソだ。徹もきっとそれは見抜いているはず。


「どこ行く?」
「・・・だから暇じゃないんだって」
「俺お腹すいちゃった。ファミレスいこ」


さりげなくわたしの手を引く徹を、わたしは拒むことができない。



「学生服と、OLの制服が並んでたら変じゃない?」
「変じゃないよ〜」


絶対オカシイと思う、わたし。
恋人には見られない。


「姉弟に見えるって」
「キョウダイは手を繋がないんじゃない」
「姉離れできない弟でごめんね、オネーサン」


言い加減オネーサンって呼ぶの、やめてほしい。
この距離感ってなんなんだろうね。
恋人じゃない。友達でもない。だけど、他人でもない。それなのに居心地がいい。

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