同じ会社だし、部署は違えどフロアは同じだから顔を合わせない日はないわけで。そんな人からのお誘いをどうやって断ればいいか、わたしは分からずにいた。これで断ったりなんだりして働きにくくなったりしたら嫌だし。徹が帰った後の部屋でうーんうーんと考えた。断らずに飲みに行くのは、さすがに気が引ける。

あ、でもあれかな。誘われたのは実はわたしだけじゃなくて、他にもいるのかもしれない。普通の飲み会なのかもしれない。二人きりじゃなかったら別に行っても許されるのだろうか。

それ以前に、わたしは行きたいのか?桐谷くんとお酒を飲みに。いや、行きたいわけではない。

「断ろう」


そう思って携帯を手に持つとちょうどいいタイミングで、電話がかかって来た。ディスプレイには 桐谷くん の文字があって、電話に出ようかどうしようか悩んで、通話ボタンを押す。桐谷くんの声より先にガヤガヤと煩い雑音が聞こえて、思わず電話を切りそうになる。なんだこれ、イタズラ電話かなにかなのかな。


「桐谷くん?」
「あーセンパイですかー」


普段の桐谷くんの声じゃない、これ。ふわふわとしてて、少しかすれた声。電話越しだからいつもと違うように聞こえるような気がするのかもしれないけど。もしかしてもしかしなくとも、桐谷くん酔っ払ってますか。


「どうかしたの」
「なんで返事くれないんすか」
「あ、今、返事しようと思ってて」
「聞かせてください」


結構、グイグイくるな。いつも何にも関心持たなそうで、のらりくらりと仕事してるイメージだから、少し意外な感じがする。
人からの誘いを断ることって、勇気がいる。関係が崩れてしまわないか、とか。余計な事を考えるから。出会って間もない桐谷くんにすら、断ることが怖い。


「ご遠慮申し上げます」


断りの文句を考えてなかったわたしはどこの時代の人か分からない言葉を口走った。しばらくするとくつくつという笑い声が電話の向こう側から聞こえて、桐谷くんに笑われていることを知る。もしかして、わたしからかわれてたの・・・?いかにもモテなそうなわたしをからかうために飲みに誘ったの?顔がカッと熱くなって、いたたまれなくなる。電話切っちゃえ、そう思って耳から携帯を離すと大きな声で、


「俺センパイのそういうとこ好き」


って聞こえた。聞こえない振りして慌てて電話を切った。無性に徹に会いたくなって、携帯電話置いて部屋を出た。わたしの部屋のすぐ隣。インターホンを鳴らしてすぐにやって来た徹に抱きつく。


心臓がざわざわする。


「うわ、珍しいね、真子さん」


徹の大きな体はわたしが抱きついたくらいじゃびくともしないらしい。わたしになにがあったかなんて露知らず。徹はへらへらわらいながらわたしの頭を撫でた。「たまにはこういうのもいいかもね」ああでもそうだ、徹は頭もいいし、勘も鋭いんだった。

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