徹が高校生じゃなくなった。


「卒業おめでとう」


ちょっとこ洒落た創作居酒屋にわたしと徹が向かい合わせに座っている。高級レストランに行くなんて緊張してできないわたしは、結局居酒屋をセレクトしちゃったわけだけど・・・。


「ありがとう〜」


徹はウーロン茶、わたしはビール。カンとグラスを合わせて乾杯をする。わたしがお酒を飲むのは良いことだけど、徹がお酒を飲むのは許されない。それは未成年ではないので当たり前のことですが、


「・・・なんで徹は入店のときに年齢確認されなかったんだろうね」
「背が高いからじゃない?」
「・・・ナルホド」


なにはともあれ、徹が高校を卒業した。思い返せば徹は一度も進路のことをわたしには話さなかったし、わたしもなんとなく徹はここにいるんだろうなぁと思っているために聞いてもいない。

美味しそうな創作料理が次々にテーブルに並ぶ。つまみをつつきながらお酒を飲むのはわたしの得意分野だけど、徹には物足りなかったかな。メニューにはガッツリステーキとかもあったから、頼んでもいいんだよ。と心の中で言う。


「今日はわたしの奢りなので、何でも好きな物食べてね」
「嬉しいなぁ。じゃあこのステーキも頼んでいい?」
「(実はそれが一番高いんだよね・・・)どうぞどうぞ」
「すみませーん!」


頭は悪くない。青葉城西の生徒は殆ど大学や専門学校に進学する。徹もその一人かもしれない。大学は日本中どこにでもあって、別に地元じゃなくたっていいはずだ。都会に行きたいって気持ちもあるかもしれない。・・・だからだ。だから、わたしは聞きたくなかったんだ。徹がここから離れて行ってしまうのかもしれないって、知るのが嫌だったから。でも聞かなくちゃ。聞いても聞かなくても時間はどんどん過ぎて行く。だったら聞いた方が良いじゃないか。徹から言わないかもしれないんだから。


「ねぇ徹」
「なに?」
「どこ行くの」
「どこ行くのって?」
「だいがく とか」
「あ、それは推薦でもう決まってるんだ〜」
「優等生」
「マァネ」
「・・・県外?」
「県外だったらどうする?」


どうするって どうするんだろう。

すっかり泡のなくなったビールを見る。温くなってしまう前に、飲みきらなくちゃ。

どうしようもないよね。仕事をやめるわけにはいかない。徹を追って、今住んでいるところから離れて暮らすなんて、そんな勇気ない。だからと言って、徹と離れることもそれはそれで嫌なんだ。


「・・・どうもしない」
「エー。そこは嘘でもついてくとか言ってほしかったな〜」
「寂しいは 寂しいよ」


今、こんなに近くにいるのに。離れるなんて、想像もできない。


「・・・真子さんがそんなこと言うなんて珍しいっていうかもう一回言って今の録音するから」
「言わない」
「デスヨネ〜」


なんでこんな時に茶化すんだろう。みじめな気持ちになる上に、恥ずかしくなってしまうよ。ビールをぐいっと一口飲む。気の抜け始めた炭酸が喉を刺激した。


「ゴホッ!」
「大丈夫?」
「ちょっとむせただけ・・・」
「はいお茶」
「それ徹が飲んだやつじゃん」
「バレた?」
「ばか」


徹はわたしより年下なのに、わたしよりも背が高くて、手も、大きくて。


「なんで頭、撫でるの」


大きな温かい手が、わたしの頭を優しく撫でる。目の前にいる徹はとても優しい顔をしていた。


「撫でたくなったから」
「ふぅん」
「それに撫で心地いいし」
「そう?」
「うん。世界でただ一つの撫で心地」
「なにそれ」
「大学はコッチ。でもちょっと遠いから、一人暮らしするんだ」
「・・・そうなんだ」
「全然会えなくなるわけじゃないよ〜」
「うん」
「真子さんが心配してるようなことは、なにもないから」


徹の浮気とか?
はたまた徹の浮気とか?
そして徹の浮気とか?ですか?

心配してないと言ったら嘘になる。大学に行ったら色んな人と出会って、県外の人だっていっぱい来るし、年上の人とかかわる機会もぐっと増えて、わたしよりももっとずっと素敵な人だっていて、きっと出会うはずなんだ。


「うん」


素敵な人と出会っても、わたしを選んでくれるのなら。

・・・そうじゃないな。わたしを選んでくれるように、わたしも努力しなくちゃいけないんだ。

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