「あああああああああ」
「及川ウルサイ」
「岩ちゃん・・・」
「潤んだ瞳で俺を見つめるな!キモイ!」
「どおしよう、おれ、きらわれたかも・・・」
「いつものことじゃん」
「・・・」
「どうせまた先走って押し倒したりしたんだろ」
「・・・・・・・・・・」







明くる日の始業前、隣の席の新野ちゃんにわたしはコソっと話しかけた。


「新野ちゃんどうしよう・・・」
「先輩話しかけてくるなんて珍しいですね!どうかしたんですか?」
「あれ?なんか馬鹿にされた感じ・・・」
「細かいことは良いじゃないですかー。それで?」
「嫌われたかもしれない」
「だれに?あ、私にですか?」
「えっ」
「冗談ですよー冗談!」


新野ちゃんはくすくすと笑う。冗談が冗談に聞こえなかったんだけど・・・。本当に冗談なんだよね?その言葉信じてもいいんだよね?

結局昨日は全然眠れず、気がついたら日が昇っていて、そのまま出社した。キスをしたことは何度もある。いつも不意打ちと言うか、そんな感じで徹がするから、しちゃってるわけで。そういえば同意のキスなんて一度もなかった、ような、うん。でもキスするのに「キスしていい?」なんて聞くのは野暮だし、え、わたし徹にキスしていい?なんて聞くつもりだったの・・・?いやそんな、バカな。


「なぁに一人で百面相してるんですか?」
「してた?今」
「ハイ。先輩は及川さんとお付き合いをしてから表情が豊かになりましたよね」
「そ、そうかな」
「でも仕事中にニヤけるのはどうかと思いますけど」
「最近わたしに厳しくない?」
「気のせいですよー気のせい」


また新野ちゃんはくすくすと笑う。新野ちゃんの手の上でコロコロと転がされているようだ。

徹は平気な顔してわたしのことを押し倒したけどさ、なんでそんな冷静でいられるか分からないわ。というかそういうことをわたし一度もしたことないから恥ずかしくて穴掘って埋まりたくなる。というか埋めておくれわたしを。


「及川さんのことで悩んでるんですよね?」
「えっいやっ?」


徹のことと言えば徹のこと?
でもセックスが怖いからしたくないって、それって徹のこと?いやわたしのことだろう。


「じゃあ、今夜飲みに行きますか、先輩」
「はい?」
「私が先輩の悩みを聞きますってことです」
「ほんと!?」
「私が嘘を言うと思いますかー?」
「(言うと思ってるなんて口が裂けても言えない)」
「先輩?」
「ありがとう!話聞いてくれる代わりにわたしごちそうするよ!」







というわけで終業後に居酒屋に来たわけですが・・・女の子と二人で飲むのは久しぶりすぎて、飲むペースがつかめない。いつも家で一人で自由気ままに飲んでたから、そのペースで飲んでたらもう、後輩ちゃんすごいの。飲むの早いしたくさん飲むし、食べるし、この間の合コンの「お酒弱いのー」っていうあれはどこに行ったんだろう・・・。


「さてお腹も膨れたことですし、先輩何があったんですか?」
「あの・・・すごく下品なことなんだけど」
「はい?」
「新野ちゃんの初体験っていつ?」
「・・・ハイ?」
「あ、ごめんなんでも「中学二年生」
「中学二年生の時ですよ」
「!!??」
「フツーですって」


この年でまだそれを迎えてないって、わたし、どうしたら・・・
重力が増したみたいに、わたしの体はズーンと重くなり、今にも椅子に体がめり込んでしまいそうだった。気持ちをもち直して新野ちゃんのことを見るとにんまりと笑っていて、ああ、これはわたしがいまだに処女だっていうことがバレてしまったんだなぁと、瞬時に思った。


「へーえ、ふーん」
「な、なに?その顔」
「先輩もしかしてもしかしなくても」
「そ、それ以上は言わないでください・・・」
「だーいじょうぶですって、及川さんに任せておけば万事解決・・・って及川さん、」


はっとしたような表情をした新野ちゃんは続けて「そーいえば及川さん高校生ですもんね」と言った。「やりたいざかりですもんね」


「ちょ、ゲヒン」
「先輩こそー」
「及川さんはDTではなさそうですけど、先輩初めてですからねぇ」


わたしの先輩と言う尊厳とかそういうのはこのお酒の席では何の意味もないみたいだ。


「今度迫られたらやっちゃえばいいですよ、ガツンと」
「が、がつん・・・?」
「痛いけど」
「(やっぱりいたいんだ!)」







「やっぱり人の嫌がることってしちゃいけないよね岩ちゃん・・・」
「そういうこと言うなんてらしくねーぞ」
「でも・・・」
「嫌がってるのに付き纏ってゲットした彼女なんだろ」
「岩ちゃん何気にヒドイ」
「嫌がることやめるって、今更なんじゃねぇの」

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