わかっていました。いつかその日が来るってことは。


「どいてください」
「エー。ナンデ?」
「なんでも!この体制はよくない!」
「どこが?」





半ば強引に徹はわたしの家にやってきて、わたしの作った簡単なご飯をうまいうまいと言いながら食べて、お腹がいっぱいになったからとわたしのベッドに横になった。徹はすぐに寝息を立て始めて、やることのなくなったわたしはシャワーを浴びに行った。それがいけなかったのか。シャワーを浴び終わり部屋に戻っても徹はまだ寝ていた。電車の数も減っているし、あと一時間もすれば終電の時刻になってしまう。その前に徹を起こさないといけない。わたしのベッドで眠る徹の、さらさらした髪の毛に触れた瞬間、徹はぱちっと目を開いた。た、タヌキ寝入り・・・!


「起きてたな」


徹はにんまりと笑って、わたしの手を引いた。わたしの背中はベッドにあって、濡れた髪の毛が冷たくて気持ちが悪い。目の前には徹の嬉しそうな顔。・・・頭突きしたいと思ってしまうのはどうしてだろう。


「うん」
「タヌキ寝入りなんて卑怯」
「そんなことないよ〜」
「どいて」
「ヤダ」
「どいてください」





「ねぇもう終電くるよ」
「それが?」
「明日学校でしょ?」
「ウン」
「わたしも仕事だし」
「ウン」


徹の手がわたしの髪の毛を撫でる。「いい香りがする」「シャワー浴びたから」「なに?準備してくれたの?」「ハ?」徹の手がするすると下に降りてって


「ダメ!!!!!!!」


思いっきり体を起して徹に頭突きをお見舞いする。ガツンと良い音がして、わたしの額にひどい痛みが走る。徹は顎を抑えて飛び起きた。その痛みに耐えているのか、徹はごろごろとベッドの上を転げ回った。痛みが治まったのか徹はよろよろと体を起こした。


「痛い」
「わたしも痛い」
「・・・帰る」
「うん」


あーあ、変な雰囲気になっちゃった。でもこれは徹が悪い。そういうことしようとした徹が悪い。だってわたしにはそういう経験がないから、そんな簡単にできるもんじゃないでしょ。それなりの心の準備が必要なのに、まだ心の準備はできていない。

いつかそんな日がくる 徹とお付き合いをしていればいつかそんな日が来る。
わかってはいるんだけど、遠い未来の話のようで、でもすぐ近くにある気がして。わたしはその日をちゃんと迎えられるのだろうか。心の準備はできているのだろうか。痛いのとかヤダよ耐えられない。好きなら、耐えられるのだろうか。


「送るよ」
「いいよ、真子さんシャワー浴びたから、湯ざめしちゃうでしょ」
「しないよ」
「・・・ね、真子さん」
「なに」
「キスしてもいい?」
「え、ヤダ」


顎をさすっていた徹は、わたしのおでこを撫でると、そこにキスをした。


「じゃあこれで我慢」


そっか。わたしは徹を我慢させているのか。


「また遊びに来て良い?」
「うん」
「うんって言われると思わなかったな〜」
「ちゃんと掃除しておく」
「・・・またね」


背の高い徹がわたしの頭をポンポンと撫でた。ドアがパタリと閉まって、徹との距離ができてしまう。少しずつでしか進めないわたしたちだけど、少しずつじゃなかったらわたしの心臓は速く回りすぎちゃってどうにかなってしまいそうだよ。

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