もう徹は帰ってしまったかもしれない。
そんな考えが頭を過ったけどわたしは後輩ちゃんを追いかけた道を後戻りした。あの駅のホームにはもう徹はいないかもしれないけれど。後輩ちゃんを追いかけて、良かったと思っている。ちゃんと後輩ちゃんと話すことができて、良かったと思う。わたしはこれで一歩前に進めるはずなんだ。気づけばわたしの足は早歩きになり、ついに走り出した。早く早く早く 徹に会いたい。

ホームに着くと、もう電車は行ってしまったらしく人はあまりいなかった。自動販売機にもたれかかって宙を見ている徹をすぐに見つけたわたしは、走って息を切らしたことをすっかり忘れ、また走り出す。一秒でも早く 徹と話がしたいから。


「・・・真子さん」
「待っててくれたんだ」
「うん」
「美奈ちゃんは?」
「友達と遊ぶって」
「元気だなぁ」
「徹の方が若いんだから元気だよ」
「俺の方が若いね、確かに」


ははは と空笑いをする徹にずきんと胸が痛くなった。
わたしと徹の間に 若い って言葉は禁句のようだと今更ながら気がつく。徹が若いのは事実だ。事実でも 若い とか 年増 とか言われてしまったら、わたしだって嫌だ。もっと相手のこと考えて、言葉を選ばなくちゃいけないなぁ。


「わたしたち、喧嘩してたのかなぁ」
「喧嘩じゃないでショ」
「え」
「真子さんが一方的に怒ってただけなんじゃない?」
「むかつく」
「あはは、怒らないでよ」


ねぇ徹
わたし年上だけだけどさ、全然年上っぽく振る舞えないし、すぐ怒るし、徹を困らせてばかりだと思うんだ。
だけどさ、やっぱり好きみたいなんだよね。徹のことを、ちゃんと好きなんだ。

愛おしくなって、徹の手をきゅっと握ると、徹は目をぱちくりさせて、「真子さんから手を握ってくるなんて珍しいね」と微笑んだ。

ちゃんと好きだから、徹が他の女の子と仲良くしてたりすると、ヤキモチ焼くんだよ。わたしだけを見ていてほしい。わたしだけの、徹でいて欲しい。そう思うのは、彼女だから当然でしょ?


「徹」
「なに?」
「なんで新野ちゃんと遊んでたの」
「真子さんが遊んでくれないから」
「遊んでるじゃん」
「真子さんがヤキモチ焼いてくれないから」
「焼いてるよ」
「じゃあもっと俺に言って?伝えて?言ってくれなきゃ分かんないよ。俺まだ大人じゃないから、真子さんの気持ちを見透かすことはできないんだよ」
「うん」
「悔しいけど、真子さんの近くにいる男みたいにおとなじゃないんだよ」
「え、わたしの近くに男なんていないよ」
「職場にだっているでしょ」
「そりゃあ、いるけどさ」
「ヤキモチ焼いたらすぐ言って。遊びたいなら電話して」
「うん」
「俺ばっか電話して、俺ばっか真子さん好きみたいで」
「ごめん」
「なんで電話してくれないの?」
「いや、だって恥ずかしいから」
「ふうん」
「ちょっとなんでニヤニヤしてんのよ」
「ん〜?真子さんが可愛いなぁとおもって」
「!!!」


徹は自動販売機に寄りかかるのをやめてわたしの手を両手できゅっと握りしめた。ぽかぽかと指先が温まって、その体温に幸せを感じる。


「電車行っちゃったし、次の電車まで何してよっか」


徹はそう言って改札に足を向ける。手はつないだまま。学生服姿の徹と、会社の制服のわたしじゃ恋人同士に見えないかもしれない。でもわたしたちは 紛れもなく 恋人なのだ。恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、もう考えなければいい。好きならやりたいことやればいい。ちょっと度が過ぎたとしても、徹ならきっと許してくれる。好き同士なら、きっと大丈夫。

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