「新野ちゃん」
「なんで 追いかけてきたんですか」
「なんでだろうね」


後輩ちゃんに追いついて、背中に名前を呼び掛けたら、振り向くことはなかったが立ち止まってくれた。なんで追いかけたのか、実はわたしにもよくわからない。罵倒されるかもしれない。明日からまともに喋ってくれなくなるかもしれない。だから弁明をしに追いかけたのか、それとも徹と一緒にいたくなかったから、逃げたのか。わかってない。ただ後輩ちゃんを追いかけなくちゃいけない、そう思ったんだ。後輩ちゃんはがっくりと首を項垂れて、呟いた。「私を 笑いに来たんですか?」


「そんなわけないよ」
「付き合ってるってわたしに隠して、それなのに私の相談乗るようなカッコして。さぞかし滑稽だったでしょうね!?」
「そんなこと思ってない」
「いいですよ、先輩は及川さんと付き合ってるんだもん!」


振り返った後輩ちゃんは、誰がどう見ても恋をしている可愛い可愛いおんなのこで。ねぇ徹。こんな子に言い寄られたらクラっと来ちゃったでしょ?詰め寄る後輩ちゃんの肩を撫でて「言いだせなくて、ごめんなさい」と謝る。


「謝られたって、そんなの」


わたしたちの喧嘩はそれほど目立ってないのだろうか、周りの視線はほとんど感じなかった。みんな急いで帰るところだから、野次馬精神はかきたてられないのか。かえって好都合だ。後輩ちゃんは目にじわじわと涙を溜めた。


「ずるいです、先輩。なんで及川さんは私じゃなくて先輩なんですか?」
「わかんない」
「私の方が先輩よりも若くて、及川さんに好かれようと努力していたのに。どうして先輩なんですか?」
「わかんないよ」


分かんないんだ。


「ちゃんと付き合ってるかどうかだって 怪しくなってきたし」
「じゃあ、別れるんですか」
「・・・だからと言って新野ちゃんに徹を渡すわけじゃない」
「先輩の意地悪」
「ごめんね」
「もう、いいです。だって及川さん大学生じゃなくて高校生だったし。そんな年下と付き合えるわけないです」
「ね、それってわざと言ってる?」
「なんの話ですか?」


後輩ちゃんはいたずらっぽく笑って、「頑張れ先輩」と言った。あんなに涙を溜めたのに、泣くことはなかった後輩ちゃんを、わたしは強い女性だと思う。カッコイイ。


「さて、気を取り直して遊んで来ます!」
「今から遊ぶの?」
「遊びますよ。友達に先輩のことと及川さんの事愚痴らなくちゃ」
「え!!」
「じょうだんですよ〜。先輩は早く及川さんと仲直りしてくださいね!」


いつの間にかわたしが励まされていることに気がついた。わたしはきゅっと拳を握りしめる。徹の事がわからないんじゃなくて、わかろうとしていないのかもしれない。理解しようとしてないのかもしれない。わたしの思考はガチガチにかたまっていて、及川の考えを受け止める準備がまだできていないんだ。でも向き合わなくちゃ。及川がなんでこういうことをしたのか。及川が何を思っているのか。わたしはちゃんと知らなくちゃいけない。聞かなくちゃいけない。聞かなくちゃ話してくれない。話してくれなきゃ先に進めない。わたしは徹と一緒に前に進みたいんだ。


「うん、頑張る」
「じゃ、先輩、また明日」
「また明日」


今度は後輩ちゃんの後を、追いかけなかった。

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