「と、及川・・・さん?」


わたしの顔を見て、次に徹の顔を見た後輩ちゃんはわけが分かっていないようで、首をかしげた。慌ててわたしは掴まれていた手を引き離し、後輩ちゃんに向き直って「路線こっちだったっけ?」と何食わぬ顔で言った。


「友達のとこ遊びに行こうと思ってて」
「そうなんだ」
「及川さん、ですよね?」


話しかけたわたしに見向きもせずに後輩ちゃんはツカツカと徹に歩み寄る。疑問文なのは多分、徹が学生服を着ているからだ。合コンで出会った及川徹は大学三年生と自己紹介をしていたんだ、高校生のはずがない。それなのに目の前にいる及川徹は青城高校の制服を身にまとっている。異議あり!アキラカにムジュンしています!と言ったところだろうか。わたしは必死に言い訳を考える。付き合ってませんと言うべきなのか、どう関係なのか明確に言うべきなのか。ここにいる人はあの時の及川徹ではないと言うべきなのか。


「久しぶり〜」
「わたしとメールしたり、デートしたりした、及川徹さんですよね?」
「うん。そうだよ」
「大学三年生じゃないんですか?」
「じゃなかったとしたら?」


わたしはここにいるよーと声を大にして言いたかった。わたしの存在はまるっきり無視で、二人はヤンヤヤンヤと言い合いをしている。うーん。わたしの入り込める隙はなさそうだし、わたしの事は奇麗さっぱり忘れているようなので、ひとまず今日はここで退散をしよう。うんうん。そうしよう。そうしたら後輩ちゃんから徹のことをとやかく聞かれなくて済む。うんうん、さ、帰ろう。あ、でも電車出ちゃったんだった。次までまだ時間あるし、どっかで時間つぶそうかな。なんて考えてわたしは二人に背を向けた、が歩きだすことは後輩ちゃんの手によってできなかった。


「先輩?どこ行くんですか?先輩に聞きたいことはたっぷりあるんですよ?」


にっこりと後輩ちゃんは笑ったはずだが、わたしは背筋が凍ってしまったように冷たく感じる。質問攻めにあっていた徹はいつも通りにニコニコと笑っていて、相変わらず何を考えているか読めない。・・・帰りたい。


「学生証も確認したことですし、及川さんが高校生だって言うのは理解できました」
「確認したんだ」
「勝手に鞄漁られたー」
「それで、さっき先輩達手握ってたみたいですけど、なんなんですか」


きっとわたしを睨みながら後輩ちゃんは言う。そんな親の仇みたいに睨まなくても・・・と思ったけど、わたしは自分がしでかしたことを思い出して、なにも言えなくなってしまった。そうだわたしは徹と付き合っていることを内緒にしたまま、後輩ちゃんの話を聞いたりしていたんだった。


「俺達付き合ってるんだよ」
「はい?」
「え?」
「だから、俺と真子さんは付き合ってるんだよ」


徹がそう言うと後輩ちゃんはふらふらと覚束ない足取りで改札へと向かった。わたしの心臓がギュッと小さくなって、追いかけようと走り出そうとした瞬間、徹にまた腕を掴まれてしまう。


「離して」
「やだ」
「なんで」
「だって追いかけるんでしょ?」
「当たり前じゃない」
「追いかけなくていいよ」
「なんで徹がそういうこと言うの」
「今はそっとしておいてほしいんじゃないの」
「・・・そんなこと言われても」
「多分彼女、失恋しちゃったから」
「多分って何。そういうコトしたのは徹でしょ」
「じゃあ真子さんは俺と彼女が付き合えばそれで満足?」
「そんなこと一言も言ってない!」


わたしが大声出したことに驚いたのか、徹は目を見開いてわたしのことを見た。掴まれた腕を引き離し、言った。


「わたしには徹のしていることが 全然 わからないよ」


そして走り出す。後輩ちゃんを探しに。

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