わたしの方が年上なのに、わたしのことを年下扱いする徹が、すこし、憎たらしかった。


「真子さんは気がつくのが遅いよ」


駅前だと言うのに、いつの間にかわたしは及川徹に包まれていて、身動きが取れない状態に陥っていた。徹はわたしのことを真子さんと呼び、すこし息苦しくなるくらいの力で抱きしめてきた。徹はわたしよりもずっと年下なのに、わたしの扱いはすっかり年下で、埋まりようのない何かの差に追いつけない物を感じた。


「俺は ずっとすきだったのに」


だから、わたしは君の言う「好き」を信じられないんだって

徹と出会ってからと言うもの、徹のことを知るべく色々探っていたんだよ。君が青城高校のバレー部に所属している及川徹だってことはすぐに分かったし、そして、徹がいかに優れた人材だということを、わたしは知ったんだよ。その上で徹がわたしのことを好きだと言っても信じられないんだ。わたしはどこにでもいる社会人の一人で、仕事が辛いだの愚痴をこぼしながら生きている大人で、それ以上でもそれ以下でもない。そんなわたしが、将来日本のバレー界を背負っていくセッターに好かれているなんて、思えるはずがない。それゆえに、君の言う好きが、信じられないんだ。悲しいことに。だからこうして、徹の腕の中に包まれていることが、包まれてしまっていること自体が、その現実が、その事実が、信じられないんだ。徹の胸に手を押し当てて、体をむりやり引き離す。君に抱きしめられている自分自身だって信じられない。


「なんで真子さんは」

「なんで真子さんは、そんなに自分を下に見てるの?」

「なんで自分の評価がそんなに低いの?」



見透かさないで 見透かさないで



「自分の評価が低いからそうして伊達眼鏡して」

「自分を下に見てるから、だから、俺に好きだって言われても嬉しくないんでしょ?自分が俺に好かれてるって信じられないから、だからそんな顔してるんでしょ?」



徹の腕がスッと伸びてきて、眼鏡を取り上げられた。急いで手を伸ばしたところで届くはずがなく、



「きれいだよ オネーサンは」



オネーサンって 呼ばないでよ



「きれいだし、ちゃんと仕事頑張ってるの、俺わかってる」

「駅のホームでいつも探してた」

「背筋しゃんとのばして立ってる姿が、すごく好きで」

「知ってた?初めて話しかけたとき、俺緊張してたんだよ」

「オネーサンが思ってるよりもずっと、俺、」



わたしの眼鏡をかけなおしながら、徹は人目を拒まずに


「とおる」


キスをしてきた。



「もう一度言う」
「なにを?」
「俺と付き合ってください」
「・・・」
「大切にする。俺はまだ高校生で、色んな面で真子さんより劣っているけど」
「そんなことない!」
「そんなことあるよ。でもそんなことあるけど、真子さんを誰にも渡したくないから」
「うん」
「俺と付き合って?」


やっとちゃんと自分にも、及川徹にも、向き合えるような気がした。向き合えるスタートラインに立てた気がした。


「うん」

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -